公務員から弁護士へ!
中村 衣里 さん
第3期修了生
双葉法律事務所・弁護士
ご経歴
1973年 兵庫県生まれ
1992年 神戸海星女子学院高校卒業
1996年 神戸大学法学部卒業
兵庫県に入庁(男女共同参画施策、青少年施策 等を担当)
2004年 神戸大学大学院総合人間科学研究科修士課程(ジェンダー論)修了
2008年 神戸大学大学院法学研究科(法科大学院)修了
2011年 司法修習修了(新64期)、弁護士登録(兵庫県弁護士会)
日本司法支援センター(法テラス)常勤弁護士 勤務
2016年 双葉法律事務所入所
公務・役職等
2012年~ 兵庫県弁護士会両性の平等に関する委員会 委員
(2013~2014年度、2016年度同副委員長、2015年度同委員長)
2014年~ 日弁連男女共同参画推進本部委員
2015年~ 日弁連両性の平等に関する委員会 委員
2016年~ 兵庫県丹波市男女共同参画計画等策定委員会 委員
大学卒業後、現職に至るまでを簡単に教えて下さい
インタビューのため中村さんの
オフィスに伺いました。
私は、神戸大学の法学部卒業後、兵庫県の職員として働いておりました。その後、法科大学院制度ができたことで、未修1期生として入学しました。仕事の都合で1年休学をしましたので、修了したのが2008年の3月です。
修了直後の4月に兵庫県職員に復職し、5月の司法試験を受験しましたが、残念ながら一度失敗してしまいました。それで、「これは仕事をしながらだと難しい。」と思って、10月に兵庫県の職員は退職しました。そして、「次の試験を!」と考えて、直前までゼミの仲間たちと勉強を重ねていたのですが、今度は少し体調を崩してしまい、その年は受験をあきらめざるをえなくなりました。その次の2010年(平成22年)の司法試験で合格、修習、そして2011年12月に弁護士登録をした、という流れです。
弁護士登録後は、法テラスの常勤弁護士として4年間過ごしました。最初の1年間は養成期間ということで、民間法律事務所である新神戸法律事務所という元町にある事務所で過ごしました。その後、尼崎の法テラス阪神法律事務所で3年間勤めました。
現在の双葉法律事務所では、今年の1月から勤務しています。
ホームページでプロフィールを拝見させていただきましたが、法学研究科(法科大学院)のほかでも学ばれていたのですか?
はい。法学部卒業後、兵庫県庁で勤務しているときに、夜間を中心に、神戸大学大学院総合人間科学研究科(現在:神戸大学大学院人間発達環境学研究科)でジェンダー論を学び、修士論文を書きました。兵庫県職員として仕事は続けながら、ということで。そして、その後、法科大学院ができたので、法学研究科(法科大学院)1期生として入学したという流れです。
また、今のお仕事を選ばれた動機やきっかけもお聞かせ下さい
私はもともと学部時代にも、司法試験の勉強はしていたんですよ。しかし、学部3年生のときに阪神淡路大震災が発生しました。その出来事を含め、様々な理由が重なり、学部卒業後の司法試験受験は断念し、就職しました。
また、県職員として働く中で、女性ゆえに様々な壁に突き当たることがありました。例えば、仕事の内容があらかじめ男女でカテゴリー分けができてしまっているというか。それに対する反発心のようなものがありました。
さらに、窓口に来られる方はそれぞれトラブルを抱えて来られるわけですが、力になりたいと思っても、一公務員としては対応できる範囲が限られていて、歯がゆい思いもしました。
そういった経験もあって、「自分の判断、裁量で仕事ができるようになりたい。」、「弁護士になりたい。」、という思いが強くなりました。そこへ、法科大学院制度開始という知らせがあり、「これは!」、と思いましたね。今の私があるのは、法科大学院のおかげという部分も大きいです。
現在の先生のお仕事とも関連すると思うのですが、女性の権利保護に注力することになったきっかけ、動機があれば教えてください
中村さんが勤務する双葉法律事務所は
神戸地裁の近くにあります。
まずは、やはり“県職員時代の自分自身の体験”ですね。職業上、明らかに不当なものに関しては、改善していきたいし、改善されるべきだと思いました。
もう1つは、“様々な方々との出会い”ですね。公務員時代にも、相談窓口にはそれぞれ事情を抱えた方が相談に来られるんですが、そういう方達を直接サポートできる仕事がしたいと考えるようになりました。その中でも女性の相談者に共感したということが、大きかったのだと思います。
現在のお仕事の概要を教えて下さい
実は、昨年、出産を経験しまして…今の仕事概要ということになると、今はバリバリ仕事をしているというわけではないのが、正直なところなのですが…。ちょっと遡って、法テラスの頃のお仕事についてお話しさせてもらいますね。
法テラスの主な業務内容は、収入要件に該当する方を対象にした民事法律扶助事件、刑事国選事件です。特に家事事件について、離婚やDVなどの事件を担当することが多かったですね。法テラスというのは、持ち込まれる事件自体は、例えば会社の合併等のような複雑な事件はないわけですが、収入要件があることからもわかるように、経済的にはあまり強くない立場の方が多く来られるんです。民事であれば、債務の返済、自己破産などが多くありますし、家事であれば離婚、子供の連れ去りとかですね。後は、最近であれば国際結婚も増えていますから、外国人の方の対応なども多いです。相談者・依頼者が外国人という場合もあるし、事件の相手方が外国人という場合もあります。
どんなところに仕事の面白さを感じますか?
中村さんが執筆した記事やチラシや案内
法テラスの民事法律扶助事件等をする弁護士には、契約弁護士と常勤弁護士がいるんですが、私は常勤弁護士として勤務していました。常勤弁護士だと、基本的に、どのような事件でも要件を満たす限り、受任するというのが前提です。そのような中で、依頼者の方とのコミュニケーション等については、いろいろと勉強になることが多かったです。
面白い点は、やはり人との出会いですね。裁判に現れる書面や証拠などの資料というのは準備されて、整えられたものになるわけですが、私たちが接するのはその前の段階の、もっと生の事実ですから。そういう事実をいかに、最終的には裁判官に伝わるように整えていくのか、そういう点にも、面白さを感じましたね。同じ物事、出来事に対しても、本当に人の考え方、感じ方というのは様々なので、人と接することが好きな人は、興味、面白さを感じることができると思います。
後は、先ほどの動機の部分とも通じる点ですが、自分の裁量で男女関係なく仕事ができるというのは本当に面白い、やりがいを感じる部分だと思います。私は特に性差別の解消などに取り組んでいますが、そういう活動に積極的に関わっていけるというのも面白いですね。
逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?例えば、依頼者の方の立場に感情移入して、落ち込んでしまうこととかはありませんでしたか?
確かに、家事事件というのは、相談者や依頼者など、ご本人にとっては心情的にお辛かったり、落ち込んでしまうような場面も多いものです。それに関わる弁護士も同じような気持ちになりしんどいと感じる人もいるようですが、私の場合は、もちろん依頼者さんからお話を聞きながら共感したり、その立場になって考えたりということはしますが、感情移入しすぎて、一緒に落ち込むといったことまではありません。
やはり依頼者さんにとって、弁護士は、その立場に寄り添う代理人であることは当然ですが、ある意味、冷静にその事案を見て、客観的に判断し、アドバイスなどをできることが大切だと思っています。
感情移入しすぎて大変だったということはありませんが、例えば、同じ話をするにしても、話の持っていきかた、話し方というか、それは依頼者さんに合わせてその都度の調整が必要ですので、それに対応するためには神経を使うことはありますね。ただ、その分、対応能力が養われたと思います。
他には、みなさん、心情的に苦しんでいらっしゃる方が多いので、「土日だから。」「もう遅い時間だから」というような理由で対応を変えることはできないですから、昼も夜もなく、という感じで働いていました。
神戸大学法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか?
特に社会人経験のある方にはあてはまることだと思うのですが、日々の仕事を離れて法科大学院で3年間学べるという期間は、新鮮でもあり貴重でしたね。本当にすごい勉強量をこなさなければならないのですが、苦労を共にした異なる年代の仲間ができるというのは、大きな経験ですし、財産になったと思います。
先生が法科大学院を受験された時代と異なり、今は予備試験という司法試験へのルートもあります。そのような中で、法科大学院を選択する意義は何でしょうか?
法科大学院と並行して予備試験という選択肢もあると思うのですが、苦楽を共にする仲間ができるし、良い先生方に出会えるという意味では、法科大学院へ進学する意義はとても大きいと思います。私は、浪人時代を長く経験しましたけど、そのような時期にも先生方は本当に熱心に指導してくださいました。また、現在勤務している双葉法律事務所の梁英子先生は、法科大学院時代にR&Wゼミでご指導くださっていた先生です。
法科大学院時代の人との出会いは、本当に今に繋がっていると感じます。
5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい
大きなことを言えば、女性に限らず誰もが自分らしく輝ける社会の実現に寄与したいという思いはあります。そのために目の前の事件を、一つ一つ誠実に対応していくということが大事なのかなと思います。
個人的なことを言えば、私は、選択的な夫婦別姓の問題に関心を持っていまして、これに対して立法的な解決が早期に実現されればいいなという思いがありますので、引き続きこうした問題にも微力ながら取り組んでいきたいと考えています。
最後に、法科大学院を志す後輩たちへのメッセージをお願いします
法科大学院時代の同期で最近集まったとのこと。
写真から、仲の良さが伝わってきます。
私自身、周囲に法曹関係者がいたわけでもなく、県職員を経てからの入学という経緯でしたので、法科大学院生活、その後の就職に関して不安に思うこともありました。でも入ってみれば、本当に様々な経歴をもった方々がおり、素敵な仲間や指導いただく先生方に恵まれたと思います。
また、就職に関しても、もちろん苦労はありますが、就職先がないのではと、初めから不安に思われる必要はないと思います。法科大学院生活が大変な分、それを乗り越えられたのだから就職先を見つけることもできる、最初の就職先でうまくいかなくてもまた新たなところで挑戦をしていける、そういった前向きな気持ちを持ち続けて、さらには弁護士として活動を続けていきたいという強い思いがあれば、道は必ず拓けると信じています。
お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
※なお、中村先生について御興味を持たれた方は、『大島眞一「ロースクール修了生20人の物語」[2011]24頁-38頁』『大島眞一「完全講義 民事裁判実務の基礎(第2版)上巻」〔2013〕425頁-428頁』も是非ご覧ください。
インタビュー実施日・場所:2016年6月23日・双葉法律事務所
インタビュアー及び記事編集者:松嶋 恵