海運を法律で支える
松宮 慎 さん
第2期修了生
弁護士法人 東町法律事務所(今治事務所)・弁護士・弁理士
ご経歴
1977年 三重県生まれ
1999年 大阪大学理学部物理学科卒業
2004年 大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻博士後期課程修了(理学博士)
2007年 神戸大学大学院法学研究科実務法律専攻修了、司法試験合格
2008年 司法修習修了(新61期)、弁護士登録、東町法律事務所
2010年 弁理士登録
2012年 今治事務所勤務
2016年~英国留学中
海事案件や知的財産に関する案件など、様々な分野でご活躍されている弁護士・弁理士の松宮慎先生にインタビューを行いました。
松宮先生はもともと大学院でビッグバンやブラックホールに関する研究をしておられ、その後進路を変更し、神戸大学法科大学院に入学・修了され、司法試験に合格。
司法修習後、東町法律事務所に入所され、神戸事務所での勤務を経て、2012年からは今治事務所で勤務されています。神戸事務所では、知財案件や災害復興支援に関する活動に携わっておられ、今治事務所では、海事案件などに携わっておられます。現在、松宮先生は海事法の勉強のため英国へ留学されており、このインタビューは英国留学前に行ったものです。
宮先生は大学院の理学研究科にお進みになり、理学博士の博士号を有しておられますが、その後、法科大学院に入学されたきっかけは何ですか
神戸事務所にて。
事務所からは神戸港が望める。
私は、子供の頃から宇宙に興味があり、高校卒業後は大学の理学部に進学し、ビッグバンやブラックホールに関する理論的な研究を行っていました。大学院に入った当初は、その分野の研究者の道に進むつもりでしたので、裁判に興味があったわけでもありませんし、弁護士になろうと思ったこともありませんでした。しかし、当時は、博士課程を修了しても、就職先がないという時代で、研究者になるのは司法試験以上に狭き門でした。
そういう現実を目の当たりにして進路に悩んでいる中、たまたま、新しく法科大学院が開設されるというニュースを知りました。当時は、研究者を目指していた関係で、自分が書く論文などの成果物についての権利などにも興味がありましたし、研究者を諦めるのであれば、全く違うことをやってやろうということで、一度、法科大学院を受験してみることにしたのです。
神戸大学法科大学院では、どのように過ごされていましたか?また、法科大学院で学んだことは、今の弁護士業務に役立っていますか
私は未修1期生として法科大学院に入学しました。入学するまで六法全書を開いたこともないど素人でしたので、1年目は相当苦労しました。授業や自習のために一日のほとんどを大学で過ごしていたと思います。神戸大学の近くのアパートで一人暮らしをしていたのですが、家には寝るためだけに帰っていました。そのときの睡眠時間は1日4、5時間くらいでしたね。
法科大学院で勉強したことは、全て今の弁護士業務の役に立っていると思います。例えば、私が履修したアメリカ法、国際経済法、独禁法などは、直接司法試験に関係がなかった科目でしたし、前期・後期と1年間にわたって開講されるものもあり大変でしたが、これらの授業で学んだことが、弁護士になった今、役に立っているなと思う場面が多々あります。
理系出身であるということが、今の弁護士の業務に活かせた場面はありますか
今治事務所
理系出身だから、すべてが分かるということはないですが、自分が経験した分野のことであれば、過去の知識が役にたったということが何度かありますね。例えば、数学的素養が必要な事件もたまにあって、そういう事件では物理をやっていてよかったと思うことがあります。また、知財の事件で弁理士さんと一緒に仕事をするときですね。理系の発想が大事になる場面もありますが、その際、弁理士の先生との意思疎通が容易だったり、弁理士の先生のこだわるポイントが理解できたりすることがあります。
現在、松宮先生は東町法律事務所の今治事務所で勤務されていますが、今治ではどのような仕事をなさっているのですか
今治の波止浜港の様子。
今治は海運業が盛んな街としても
知られている。
今治で特徴的なのが海事案件です。そもそも、今治というとタオルが有名かと思いますが、海運業が盛んな街としても知られています。一口に海事案件と言っても様々ありますが、船の事故や、傭船契約という船の貸し借りの契約に関する紛争、造船契約に関する紛争などが含まれます。
また、船の世界の契約では、仲裁合意が定められていることが一般的であり、仲裁機関に紛争が持ち込まれることが多いので、海事仲裁の代理人をすることもあります。
弁護士になった当初は、海事をやるとは思ってもいなかったですが、私が神戸にいるときに、うちの事務所を会場として、日本海運集会所(JSE)の海事法研究会が行われていて、海事法ってどんな法律だろうと思いながら、この研究会に参加し始めたところ、今治に転勤になったということです。この研究会がなかったら、私は今治には行っていなかったと思います。
英国へ留学されるということですが、英国ではどのような勉強をされる予定ですか。また、松宮先生ご自身の将来像をお聞かせください
書棚に並ぶ海事法に関する専門書
海事法は、英国法が準拠法になることが多いため、日本法よりも英国法を扱うことが多くなります。
今治に来て4年になりますが、これまで体系的に海事法を勉強する機会がなかったので、英国留学では、傭船契約に関する判例や、保険法、シップファイナンスなどを基礎から学んでこようと思います。これから先、企業の経済活動がグローバル化している中で、弁護士自身も国際的な視野や素養を持つことが必要だと感じています。仕事は海事法が中心になるかもしれませんが、かといって、業務分野を限定するつもりはなく、幅広く企業の国際化に対応できるような弁護士を目指していこうと考えています。
法科大学院の学生や、これから法曹を目指し法科大学院の入学を考えている学生に対して、メッセージをお願いします
弁護士になったら、新しいことにチャレンジするという気持ちを忘れないで欲しいと思います。弁護士は企業の社員と違ってかなり自由度が高い職業ですから、自分の努力次第でいくらでも可能性が広がります。私の場合も、事務所に入るまで「海事」という言葉も聞いたことがなく、神戸では知財案件などに携わっていましたが、研究会にコツコツ出ていた結果、今治に赴任することとなり、その後、海事法を勉強しに留学するまでに至りました。こういうところが弁護士のメリットだと思います。
それから、学生時代に総合的な人間力も鍛えて欲しいですね。弁護士といっても、単に勉強ができるだけではだめで、社会から必要とされ、信頼されるような人物である必要があると思います。そういう意味で、弁護士として成功するためには、いわゆる人間力を身に付けることが大切だと感じています。
また、弁護士は本当に困っている人の味方であるべきという考えから、私は、これまで、災害復興の活動にも取り組んできました。このような視点は弁護士として常に持っておかなければならないと思います。
お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
インタビュー実施日・場所:2016年6月18日 東町法律事務所(神戸事務所)
インタビュアー及び記事編集者:小出悠介