医療法務~医と法の相互理解を目指して~
小田 祐資 さん
第3期修了生
神戸海都(かいと)法律事務所・弁護士
ご経歴
1972年 神戸市生まれ
1991年 甲陽学院高等学校卒業
1998年 香川医科大学(現:香川大学)医学部医学科卒業、医師免許取得、京都大学医学部麻酔科医局入局(その後複数の病院に勤務)。
2008年 神戸大学法科大学院修了、司法試験合格、最高裁判所司法修習所入所(新62期)
2009年 神戸海都法律事務所に入所
公職・役職等
兵庫県弁護士会常議員、日本麻酔科学会員、日本医事法学会員、香川大学医学部付属病院非常勤医師(麻酔・ペインクリニック科)ほか
弁護士であるとともに医師でもある小田祐資先生にインタビューを行った
先生は、香川医科大学(現:香川大学)医学部を卒業し、医師として複数の病院に勤務したのち、神戸大学法科大学院の未修コースに入学・修了され、司法試験に合格。司法修習を経て、神戸海都法律事務所に入所し、現在は同事務所のパートナー弁護士として執務するに至る。専門分野は医療法務。専門分野の法曹養成という法科大学院の理念、また、他分野の優秀な人材から法曹を養成するという未修コースの理念にまさに適合する人物といえるだろう。
インタビューとして弁護士を目指した理由、仕事の内容やその魅力、神戸大学で学んでよかったことについて質問させていただいた。みなさんの進路選択に役立ててほしい。
医師資格に加えて弁護士資格を取得しようと考えた理由は何ですか
神戸海都法律事務所フロントにて
私は平成10年に医師になりましたが、当時は「医療ミス」の報道が非常に多く、その内容は過度に扇情的なものでした。「医者を悪者にする」ような論調ですね。若く、感受性の強い時期でしたので、「こんなに一生懸命頑張っているのに、理不尽だよな。」と思っていました。医師としてキャリアを積んだ後もその思いが続き、「司法の現場の実際を知りたい。」と思い神戸ローに入学しました。その意味で、私は「弁護士資格をとろう。」と強く思って法科大学院に入学したわけではなかったですね。
現在、どのようなお仕事をされているのでしょうか
民事・家事・刑事全般を扱っていますが、中心的な業務は、患者さんからクレームがあった際の対応について医療機関に助言したり、示談交渉や訴訟の代理を行うといった、いわゆる医療紛争の法務です。他にも、契約書の作成・添削、労使紛争の使用者側代理等の一般企業法務もしていますし、交通事故や相続、離婚、刑事事件など個人的な事案も扱っていますが、医療機関からの依頼が多くなってきました。現在は、業務の6割程度が医療法務です。全て医療機関側の依頼で、患者さん側の代理は一律にお断りさせていただいています。
デスクに積まれている医学書
「臨床医の経験は、弁護士業務の役に立ちますか」といわれれば、自分では役立っていると思っています。医療紛争では、事案の解説や医学的な評価・主張については担当医の先生方からレクチャーを受けますので、代理人が医学知識をもっていることは特に必要ではありません。とはいえ、代理人である私が医学知識を有していることで、訴訟における論理の組み立て、証拠となる医学文献の調査、あるいは訴訟期日での裁判所・相手方とのやり取りなどの点で専門性のアドバンテージがあると感じています。また、医師は多忙ですから、カルテを見てすぐに何らかの助言が可能であるとか、面談の際に基本的な事項の説明に時間をかけずに済むという面も、意外と重要であるように最近思うようになりました。医療機関からの依頼では、医療紛争以外の場面でも、病院特有の事情を理解していることで、病院の事務担当者から「やり易い」と言っていただくことがあり、医師としてのキャリアが役立っているなと思っています。
現在の仕事にどのような魅力を感じていますか
執務室のデスクにて
弁護士業務一般について言えることだと思いますが、自分の公平感や信念に基づく主張を行い、その主張が認められたときに「弁護士になってよかった。」と思いますね。
医療紛争についていえば、私は、「こちらが悪いのであれば、然るべく謝罪して示談すべき。」と考えていますが、「こちらが間違った医療を提供したわけではないのであれば、過失を前提とするような謝罪や金銭支払いを伴う和解などはすべきではない。」と考えています。なんでもかんでも謝ってばかりでは、医療者の士気は上がりませんよ。これは、かつて自分自身が抱いた感情です。私は、医療機関側の代理人として医学的に正当な主張を適切に代弁することが、結果として医療の発展、向上に資するものと思っています。そういった紛争では、本当に胃が痛む思いをしますが、最後、判決で「注意義務違反があったとは認められない。」と判断されたときには、やり甲斐といいますか、「よかったな」と思いますね。
また、ダブルライセンスだから病院の仕事が来るというわけではありません。弁護士になって数年は全く医療関係の仕事がありませんでした。徐々に医療機関からの依頼が増えてきたときは、自分の仕事が評価されたような気がしてやはり嬉しかったですね。
将来どのような方面に仕事を進めていきたいですか
書棚には分厚い医学書や判例集が並ぶ
医と法の相互理解を深める一助になりたいと考えています。「仕事」というよりは、アカデミック的な話かもしれませんね。医療と司法は相互に影響の大きな分野ですが、互いの理解は非常に乏しいといわざるを得ない。そのような状況である以上、私のような双方の分野に携わっている人間が、両者の掛け橋にならなければならないと思っています。
私たちが法律の仕組みや考え方を医療の現場に伝え、また、司法に対して臨床現場の感覚を理解してもらうことで相互の不信を取り除き、医療の進歩に貢献することが個人的な目標ですね。
神戸大学法科大学院で学んでよかったことや役にやっていることはありますか
書棚に並ぶ麻酔学会誌。
麻酔科学研究にも携わっている。
まず、法科大学院制度がなければ、司法試験を受けられなかったと思います。なので、神戸大学法科大学院で、学生同士で刺激をし合って、頑張れる環境にあったことが良かったです。
最後に、神戸大学法科大学院で勉強している後輩やこれから法科大学院に入学しようと考えている方へ一言お願いします
ロー生の皆さんには志を高く持って欲しいと思います。大仰な表現ですが、「自ら何かを学ぶ」ことの喜びをロースクール生活で感じて欲しいと思います。人生における本当に貴重な時間です。貪欲に学問を頑張ることを、精一杯楽しんで下さい。
また、法科大学院や司法制度については、合格率の低下など明るくない話題もありますが、少なくとも神戸ローについては、法律の実務を学ぶ場としての魅力が十分にあると思います。法科大学院進学の主たる目的は司法試験合格ですが、仮にそれが叶わなかったとしても、「法律の基本的な考え方」と「法曹実務での取扱い」を大学院で身に付けることは、社会人として極めて有益です。法科大学院に関心のある方は、受験指導に過度に傾倒することのない、真に実務に必要な法律を学ぶことができる法科大学院を選択して欲しいと考えています。
大人が、自らの意思で目標に向かって学問を頑張るという時期は、本当に夢のような期間です。そういった時期に、同じ目的を持った仲間と共に過ごすひとときこそが、人生を豊かにしてくれるものと私は思っています。
ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
インタビュー実施日:2016年3月16日
インタビュアー及び記事編集者:薄田真司