概  要

「自由度が高くやりがいのある仕事」

海道 俊明 さん
第4期修了生
関西大学准教授(2024年(令和6年)12月現在)
ご経歴
2009年3月 神戸大学法科大学院修了
2009年4月 神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程
2009年9月 司法試験合格
2011年11月 神戸大学大学院法学研究科助教
2015年4月 近畿大学大学院法務研究科専任講師
2018年4月 近畿大学大学院法務研究科准教授
2021年4月 関西大学大学院法務研究科准教授
ご専門
行政法
代表業績

海道俊明「Chevron法理と重要問題法理」民商160巻3号(2024年)335頁、正木宏長ほか『入門行政法』(有斐閣、2023年)、海道俊明ほか『精読行政法判例』(弘文堂、2023年)

  • 神戸大LSではどのような学生生活を送っていましたか?印象に残っている授業や先生などを伺いたいです。

    特に印象に残っているのは、橋爪隆先生の刑法の講義と、中川丈久先生の公法系訴訟実務の基礎の講義です。
    橋爪先生の講義は、説明がしっかりしており、この講義だけで司法試験受験レベルに到達できるように工夫がされていました。また、模範答案を自ら作成されるなど、(教育者となった)今考えても素晴らしい先生だったと思います。
    中川先生の講義は、対演はご本人の作られたレジュメを他の先生が扱う講義を受けていたので、ご本人が扱うとこれほどまでに理解しやすいのかと感じた記憶があります。それまで行政法はそこまで得意科目ではなかったのですが、ここで行政法に興味を持つきっかけを得られたように思います。
  • 研究者になろうと思ったきっかけを教えて下さい。

    もともと、祖父や父が他分野の研究者だったので、研究者はとても身近な存在でした。
    そこで私も、学部3回生の頃に、院入試の検討を始めたのですが、ちょうどロースクール制度が始まるタイミングで、修士課程の募集がなくなっていることを知り、知人の研究者に相談をし、急遽ロースクールに進学することとしました。ロースクール進学後は、研究者志望の動機付けがだんだんと弱まり、一時は実務家を目指していましたが、3L生の年末か年明けころに博士課程への進学に関する案内がMLで流れてきたのを見て、昔の気持ちを思い出し、当時しばしば質問に伺っていた刑事訴訟法の池田公博先生に相談をして、最終的に進学に至ったという経緯があります。
  • 行政法を専攻した理由を教えて下さい。

    以上の経緯から、ざっくりと研究者を志望した状況だったので、専攻を決められていませんでした。そこで、池田先生に相談をして、複数の科目の先生方に面談の機会を設けて頂きました。その中で、中川先生のお話を伺い、行政法を専攻とすることを決めました。
  • 博士論文をどのように執筆されましたか?完成までに要した時間,外国法の学習方法,特に苦労したこと等あれば伺いたいです。

    私は、博士論文は執筆していませんので、助教論文とその前に書いていた論文(先行論文)についてお話したいと思います。まず先行論文ですが、私は、博士課程後期課程に進学した後に、休学のうえ、司法修習に行かせてもらうことができました。そして、復学後に、指導教員の中川先生と面談をした際に、修習で見聞きした事案の中で扱われた気になる論点について、まずは一本論文を書くように指示を頂きました。ちょうど民裁修習先が神戸地裁の行政集中部で、そこで違法性の承継が扱われた事案があったので、違法性の承継について書いてみようとなったのです。これについての論文がある程度出来上がったタイミングで助教に採用され、助教となった後は、当該論文の完成に向けた作業をしながら、助教論文の作成に向けて取り組み始めました。
    助教論文の執筆自体は、このように先行論文の完成にやや時間がかかっていたので、テーマ決めやリサーチに取り掛かれたのは、助教の2年目になっていたと思います。なので、約3年半の助教の任期のうち、助教論文自体は2年半ほどかけて執筆したことになります。
    助教論文のテーマは、中川先生のスクーリングの過程で出会いました。比較的新しいアメリカ連邦最高裁の判決を翻訳したうえで検討をするもので、アメリカでは行政機関の制定法解釈に裁判所が敬譲を払うという原則があることを知り、一般的な我が国の考え方との違いに驚いた記憶があります。そこから、その原則を生み出した昔の判決について調べるうちに面白くなり、これを助教論文のテーマとすることにしました。
    特に苦労したことは、やはり、ロースクール出身で修士課程の間に外国語の練習ができていないため、アメリカの判例や文献を読み込むのに相当時間がかかった点です。とにかく、辞書を横に置きながら、高校生に戻った気分でひたすら読み続けた記憶があります。ただ、特定の分野における専門用語はある程度読んでいると覚えるので、コツを掴むとだんだんと読むスピードが上がった記憶があります。
    あとは、論文の執筆量(字数)が増えれば増えるほど、統一性や一貫性が保ちづらく、これをまとまった一本の論文に仕上げるのに苦労をした記憶があります。
  • 研究テーマをどのように探していますか?

    私の研究者のキャリアは、助教を除くとまだ10年経過していないので、これまでは、自分の先行研究とのつながりの中でテーマを探していました。むしろ、これからどのようにテーマを選んでいくか、まさに今考えているところです。自治体の審議会などでも行政にまつわる現代的な問題が色々と転がっているので、そういったところからもヒントを得たいと考えています。
  • 法科大学院での学習が研究者としてのキャリアにどのような影響をもっていますか?

    まず、教育者としてのキャリアには直結する形で影響があります。現在、法科大学院で指導をするに当たり、神戸大学の法科大学院で学んだ経験がとても役に立っています。判例・個別法多読型の講義スタイルは、まさに神戸大学法科大学院の行政法講義のスタイルを取り入れたものです。また、自身が受験生だった頃の感覚を大切にしながら、教育に当たりたいと考えています。法科大学院の講義は情報量が多いので、復習しやすいように復習用のレジュメを出しているのですが、これは「こういったものが欲しかった」という昔の自分の感覚から思いついたものです。
    研究者としてのキャリアについては、研究対象の選択に必然的に影響を与えていたと思います。主として行政活動に対する司法審査論が私の大まかな研究テーマですが、法科大学院経由だからこそ、そこに素直に興味を持ったのだと思います。また、こういった研究テーマを選択すると、日々の教育活動の中で浮かんだ疑問が、新しい研究テーマの発見に繋がることもあるので、教育活動と研究活動を有機的に繋げることができるようにいつも意識しています。
  • どのような人が研究者に向いていると思いますか?研究者に必要な能力を鍛える方法等を伺いたいです。

    向き・不向きでいうと、興味をもった疑問について、時間をかけてでも解明したいと素直に思える人であることは大切な気がします。また、論文を書いていると、煮詰まった後にブレイクスルーを見つけるタイミングがたまにあります。この体験は、自分にとってはかなり重要で、そういった瞬間を得るために、長く苦しい時間を過ごすことができるタイプの人は研究者に向いているかもしれません。
    また、基本的にはチームで仕事をするというよりも、1人で仕事をすることが多いので、指示を受けずに仕事をしたい人はこの仕事が向いているような気がします。
    適性はもともと持っているかどうかも大きいので、どのように鍛えるかは難しい問題ですが、幅広く文献を読んで自分が興味を持つ分野を見つけ、その点についてどんどん掘り下げてリサーチしてみる、というのを繰り返すことが結局近道のような気がします(逆に言うと、その繰り返しが苦痛な場合、やや向いていないということになるのかもしれません)。
  • 現在の研究者としての生活はどのようなものですか?標準的な1日のタイムスケジュール等を伺いたいです。

    まず、講義がある期間かそうでないかで大きく異なります。講義期間中はどうしても教育活動に時間がとられるので、そちらが主となります。例えば、私の場合、木曜日は3コマあるので、研究活動には殆ど時間を割くことができません。できたとして、種々の学内行政の雑務処理や、次の講義の準備程度です。この期間は、講義のない日に研究活動を行うことが多いです(が、自治体の審議会などの仕事も入ってくるので、時間のやりくりには結構苦労します)。
    他方で、休暇期間中は、リサーチや論文執筆、その他の原稿のために時間を割くことが多い印象です。
  • 研究者という仕事にどのような魅力を感じていますか?

    研究者には特定のクライアントがいるわけではないので、多くの仕事を「自分のため」にすることができます(学内行政などは別です)。また、時間に追われる時期もありますが、余裕がある時は、自分の広い裁量で仕事を進めることができます。いろんな意味で、もちろん責任も伴いますが、「自由度」が高いのがこの仕事の魅力だと思います。
    また、私は法科大学院の教員なので、やはり学生から司法試験合格の報告を受けたり、実務についてから立派な姿を見せてくれたりするのが嬉しいですね。卒業生と会って近況を伺う機会は、私にとっても大切な時間です。