概  要

「好奇心を満たし続けられる生き方」

堀澤 明生 さん
第7期修了生
東北大学准教授(2024年(令和6年)12月現在)
ご経歴
2012年3月 神戸大学法科大学院修了
2012年9月 司法試験合格
2012年10月 神戸大学大学院法学研究科助教
2017年10月 神戸大学大学院法学研究科研究員
2018年4月 北九州市立大学法学部専任講師
2020年4月 同准教授
2023年4月 東北大学大学院法学研究科准教授
ご専門
行政法
代表業績
堀澤明生 「アメリカ法における行政主体の『公訴権』の歴史的展開(1)~(3・完)」 自治研究93巻9号(2017年)94頁・93巻11号(2017年)82頁・94巻3号(2018年)99頁、
堀澤明生「アメリカ法『公訴権』の古層」神戸法学雑誌68巻1号(2018年)123頁
  • 現在に至るまでの経歴について教えてください。

    高校卒業後、東京大学法学部の政治コースに進学しました。当初は政治哲学や政治思想といった分野に関心があり、その分野で進学することを検討していました。しかし、途中で進路を変え、2009年4月から神戸大学法科大学院未修コース(7期)に入りました。その後、2012年3月に法科大学院を修了し、同年の司法試験に合格後、神戸大学大学院法学研究科助教に採用されました。助教として5年間(~2017年)在籍した後、2018年に北九州市立大学法学部に就職し、2020年に同大学准教授になりました。2023年には東北大学大学院法学研究科の准教授に移籍し、現在に至ります。
  • 法曹ではなく、研究者になろうと思った動機・きっかけは何ですか。また、その際、行政法を専門にしようと考えた理由は何ですか。

    法科大学院に入った当初は、クライアントの利益から距離を取って中立的に考える仕事がしたいと考え、裁判官を志望していました。そのような中、2Lの冬、研究者志望者を探していた中川丈久先生と話す機会があり、この先生の下ならのびのびと研究ができると考え、研究者を志望するようになりました。
    そうはいってもどの法分野を専攻するかは悩みましたが、執行に関心があったこと、行政法は関係する領域が広く、飽き性の自分に合っていると考えたことから、行政法を研究することに決めました。
  • 研究大学院を選ばなかった理由及び神戸大学法科大学院を選ばれた理由を教えてください。

    もともとは政治哲学の大学院を目指していました。しかし、当時出版されたばかりの法哲学の書籍を読んだ際に当時その内容をほとんど理解することができず、この知的水準に達することはできないと感じてしまいました。また、学部3年生のアメリカ政治のゼミでレポートを執筆する機会がありましたが、相当に苦労をしました。このような事情から、自分には研究者は向いていないと考え、研究大学院への進学はせず、就活もしたのですが、紆余曲折を経て、裁判官を目指して法科大学院へ行くに決めました。
    神戸大学法科大学院は優秀な先生が多いと当時から認識しており、司法試験合格率も良かったため、進学先として同法科大学院を選択しました。
  • 法科大学院生の時はどのような生活を送っていましたか。

    入学してからは未修者としてとにかく必死に勉強し、何とか上位の成績をとることができました。しかし、それで安心してしまい、1Lの後期で少し気を抜いたところ、2L前期で思うような成績が取れませんでした。このままでは良くないと思い、答案を上手く書ける人を集めて勉強会を行ったり、勉強方法を聞き出すなどしたりしたところ、再び成績が上昇していきました。3Lの前期が終わったころには研究者を目指すことを決め、後期に中川先生にリサーチペーパーの代わりになるようなものを提出しました。
  • 助教論文はどのように執筆されましたか。テーマの選定や執筆時期の生活、執筆に伴う苦労等を教えてください。

    テーマとしては行政主体の、行政上の義務履行確保のための出訴権がアメリカでいかにして定着したのかを選択しました。日本では、宝塚市事件(最判平成14年7月9日民集56巻6号1134頁)において行政主体の出訴権を限定する判断が示されているのですが、これに対しては学説上、アメリカ法ではこのような限定はされていないという批判がなされていました。しかし、なぜアメリカ法ではそのようなことが始まったかについては説明が十分にされておらず、この点を疑問に思ったため、これを論文のテーマとしました。
    実は助教になった当初構想していたテーマはこれとは異なるのですが、2年目になるころにテーマを変更しました。助教には3年が終わったタイミングで執筆・報告義務があり、それに向けて研究生活を送ることになるので、研究テーマは時間的にあまり余裕がない状況で決定することになりました。
    執筆はかなり苦労しました。なかなか研究のブレイクスルーが起きずに悩んでいた中、とある法制史の先生のお話を聞いて自分の調査範囲がまだまだ甘すぎると認識しました。図書館にこもって、アメリカにおいて重要とされる判決の前後の期間の、当時のローレビューや判決について、とにかく関連しそうなものを読みました。そのような中で宝塚市事件判決に近い発想の判決がアメリカの州裁判所にあることを見つけたときは嬉しくなりました。 執筆しているうちに自分では内容に慣れてきてしまいますので、新鮮味がないように感じ、自信を無くすこともありました。公表に時間がかかり、さまざまな人にご迷惑をおかけしましたが、先生方や友人らからの励ましもあり、論文として発表することができました。日本公法学会での公募セッションでの研究報告は、とても緊張しました。
  • 法科大学院での学修は研究者としてのキャリアにどのような影響があったと思われますか。

    結論から言うと、法科大学院での学修は大きな影響がありました。行政法を研究していると、憲法はもちろんのこと、民法・民事訴訟法、刑法・刑事訴訟法の理解が求められることは多いです。おそらく分野として遠いと考える人が多いであろう会社法も、組織のガバナンスという観点からは、参考になることがあります。また、司法試験選択科目として経済法を選択しましたが、行政法の一分野として経済法の理解が役に立つことは多いです。このように、法科大学院にて基本7法と選択科目を横断的に勉強したことは、知識のつながりや複数の法分野の見方の修得につながっており、それが研究に大きく役立っています。  
    また、法科大学院で学んだことは教育面でも役に立ちました。北九州市立大学では1年生相手のゼミを担当する機会があったのですが、まだ法学を知らない1年生に対しては、やはり最重要科目である民法を学んだ経験が活きることが多かったです。  
    他方で、法科大学院では、研究大学院と違って外国語の習得や外国法の勉強をする時間をその間に確保するのは難しいため、研究者になるという観点からは、その点がデメリットだと思います。
  • 現在の研究者としての生活はどのようなものですか。職務内容ややりがい、生活リズム、ワークライフバランス等について教えてください。

    現在は研究の他に教育等も行っているため、忙しい生活を送っており、助教時代の研究に専念できていた時期を懐かしく思います。もっとも、授業準備や質問対応をする中で考えさせられることがしばしばあり、教育活動が研究活動に資することも多いです。  
    やりがいとしては、他の研究者等との交流による新たな視点の獲得があると思います。私は東北大学の公共政策大学院に関わっており、同大学院のワークショップ(実務家と研究者が共同して、あるテーマのもとにフィールドワークをしながら政策提言を目指すゼミ)に研究者として参加したことがあります。その際、総務省の方と組むことになり、合併された地域のコミュニティの維持についてフィールドワークをしました。これは私にとって知的刺激となりました。また、これまで書いたものがきっかけとなって、行政を含む実務から必要とされる機会が増えてきたこともやりがいとなっています。 研究者としての生活は忙しいですが、余暇を取る機会も十分にあります。法科大学院の同期と温泉旅行に行くこともできているため、ワークライフバランスは充実しています。
  • 法科大学院生の中には、研究者という選択肢に関心を持っている人も少なくないと思いますが、そのような人に向けてメッセージをお願いします。

    大学での研究者という職業は、それなりの生活をしつつ、精神的な自由度の高い環境で、知的刺激を受けながら仕事ができるという魅力があります。近年、大学をめぐる環境は厳しくなっていますが、依然として、どのように仕事をするかは研究者本人に相当委ねられています。
    研究者に関心がある人でも、本当に自分が研究者になれるか不安を感じている人が多いと思います。確かに、研究者市場に出ることは簡単とはいえませんが、現在、実定法分野の多くは人手不足です。また、行政法分野の話ではありますが、行政法研究者が足りないと、各種の地方公共団体の委員の担い手が足りなくなったり、地方公務員の育成に支障をきたしたりと、地方公共団体の法実務が低下するおそれがあります。さらに、国レベルでも、新しい法律を作ったり法改正をしたりする際に、今以上に、行政法的観点からのコメントが必要な分野は多いと思います。このように、法学研究者は社会において必要とされているので、関心がある人は是非目指してほしいと思います。