大学院の歩み

故郷で働く 〜大学が繋ぐ福井との縁〜

津田 耕平 さん

第12期修了生
九頭竜法律事務所・弁護士


ご経歴
2011年3月 福井県立武生高校卒業
2014年3月 神戸大学法学部法律学科卒業
2017年3月 神戸大学法科大学院(既修者コース)修了
2017年9月 司法試験合格
2017年11月 71期司法修習生(実務修習地 大阪)
2018年12月 司法修習修了、弁護士登録(福井弁護士会)、九頭竜法律事務所勤務


弁護士になろうと思ったきっかけは何ですか?

インタビュー中の様子。
たくさんの質問をしましたが、その1つ1つに丁寧に答えてくださいました。

高校生のころ、当時の担任の先生から、日弁連高校生模擬裁判選手権の県予選大会に参加してみないかと勧められて、漠然と面白そうだなと思って参加したことがきっかけです。模擬裁判は、事前に模擬裁判用の刑事記録が配布されて準備を行い、当日には実際に裁判所の法廷を使用させていただき、弁護人役と検察官役に分かれて刑事裁判の一連の手続を行うという本格的なものでした。準備期間には、弁護士の先生に高校まで来ていただき何度もご指導いただいたほか、裁判所まで付き添っていただいて、初めて実際の裁判を傍聴したりもしました。大変貴重な経験でした。

私が参加した年度は県予選大会を突破することは叶いませんでしたが、弁護士と身近に話せたことや実際の裁判を初めて傍聴するなど、法曹の仕事に触れる機会を戴くことができ、この頃から、弁護士を志すようになりました。

神戸大学法科大学院を選んだ理由は何ですか?

大学受験の頃には弁護士の職に就きたいと考えていたため、法学部からロースクールに進むという方向性はすでに決めていました。司法試験を念頭に置いて、インターネットで司法試験の合格実績を検索したところ、神戸大学ロースクールは司法試験の合格者数・合格率ともに非常に高く、ロースクールを前提に、大学受験から神戸大学を目指すことに決めました。実際、神戸大学に入学してからは質の高い講義を数多く受講することができ、ロースクールも神戸大学を目指そうという気持ちは一層増していたように思います。特に、商法担当の榊素寛教授には、大学時代から通して大変お世話になりました。

ロースクール時代はどのように過ごしていましたか?

神戸大学のロースクールには自習室、いわゆる自習棟があり、冷暖房が整備されたスペースが24時間開放されています。私も、多くの学生と同じように、講義の合間や講義後は基本的に自習棟で生活していました。法律に関する書籍は自由に閲覧可能で、インターネット環境も整えられているので、調べ事にも不自由しません。また、個人用の自習スペースだけではなく、談話室や、自主ゼミ等に活用できる共有スペースまで設けられており、勉強する環境としては申し分のないものでした。特に司法試験が近づいてきた時期は、講義のない土日も含め、毎日、自習棟を活用していました。周りにいる人も皆勉強しているという環境は、自分のモチベーションにも良い影響があったと思います。共有スペースでは、自主ゼミを組んで司法試験の過去問等を解きお互いの答案にコメントする等、毎週行っていました。あとは、食堂のご飯が安くて美味しかったですね。毎日、食堂と自習棟を往復していました。

ロースクール生活の中で今の仕事に生きていることはありますか?

神戸ローの講義は、単に法律と判例の表面をなぞるものではなく、ソクラテスメソッドにより法知識を正しく深く理解できるよう構成されているかと思います。講義に備えて下級審から最高裁判決まで裁判例を確認することも多いですし、講義を通じて気づきを与えられることで、判例の射程を意識するといった基本的な法解釈の姿勢が自然と身に付いたのではないかと思っています。あとは、一人で勉強していると、ついつい読んだだけで解った気になるということがよくあるのですが、先ほどのソクラテスメソッドによる講義での教員とのやり取りや自主ゼミ等での友人との会話の中で、解ったつもりなのに言語化できないということは度々あったので、そういった会話をすることが自分の理解度を測る上で役立ったと思います。

現在の事務所に入所された経緯を教えてください。


津田先生がお勤めの九頭竜法律事務所は、 法律事務所や公証役場などが入るビル内にあります。

ロースクールの科目の一つに「エクスターンシップ」というものがあります。法曹実務家の指導の下で実務に携わり応用力を身に着けるプログラムなのですが、九頭竜法律事務所は、そのエクスターンシップの際にお世話になった事務所です。地元の福井に戻る形になりました。

エクスターンシップは2L(既修者では1年目、未修者では2年目の学年)後期の2月から3月頃に行われるのですが、事務所にお世話になってから1年以上経った後、当時の指導弁護士の先生に司法試験に合格したことを報告しました。すると、エクスターンシップのことを覚えて下さっており、「来てもいいよ」と声をかけていただけました。その頃は、働く場所を福井に限っていたわけではなく、関西方面で就職活動することも視野に入れていたのですが、福井という地元との縁もありましたし、幅広い案件を取り扱って視野を広げたいという思いが強かったことや、何より、エクスターンシップの際に感じた雰囲気、事務所の弁護士や事務局の方々の人柄、優れた先生方の下で実務を学びたいと思い、今の事務所に決めました。

今、エクスターンシップというお話が出ましたが、どのようなことをされていたのでしょうか?

依頼者の方との打ち合わせに同席する、事件記録を読んで法律文書の起案をする等の基本的なことは一通り体験しました。

また、エクスターンシップ期間が、指導担当の先生の破産管財事件の初動の時期に重なり、色々な現場に連れて行っていただいたことが最も記憶に残っています。破産管財人とは、簡単にいえば、破産者の財産を管理し、破産者とその債権者の利益を図るため裁判所に選任された弁護士のことです。衣料品販売業の法人破産の案件で、取引先への説明、現地の販売店への立入り、労働者に対する賃金の説明等に立ち会わせていただきました。それまでの私の認識では、弁護士は事務所の中で文書を作っているか裁判に出ているかのどちらかだと思っていたのですが、事務所外の弁護士の活動を知ることができ、貴重な経験となりました。

今の仕事内容を教えてください。

事務所のあるビルの玄関にて。

特に特定の分野のみを担当しているのではなく、幅広い事件に関わっているのですが、割合的に多い類型は、交通事故、破産、消費者被害になると思います。交通事故事案では不法行為が基本となりますし、破産法は司法試験の選択科目とする方もいらっしゃると思いますが、消費者被害事案では、消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法等の司法試験では取り扱わなかった消費者関連法を勉強することになりました。新たな法律を勉強するときも、基本はロースクールでの法解釈や判例分析が土台になっていると思います。

それ以外にも家事事件を担当することもありますし、地方なので国選の刑事事件を担当することもままあります。今後も幅広い分野で経験を積むことができればいいなと思っています。

仕事でのやりがいは何ですか?

弁護士一般にいえることだと思いますが、やはり依頼者の顔が見える仕事なので、成果を報告できれば依頼者に喜んでいただけることが仕事のやりがいです。その分責任が伴うので、胃が痛くなることもあります。

仕事をしていくうえで大変なことはありますか?

忙しいことです。という冗談はさておき、法律事務所にはいつも幸せで毎日が楽しく悩みは無いというような人は来られません。何かしら困っていること、悩みごとがあるからこそ相談に乗ってほしいと思い、事務所を訪ねて来てくれます。相談の中には聞いている側でも衝撃を受けたり落ち込んだりするような話もありますから、人のマイナスの感情と対峙しなければならないことは仕事柄避けがたく、大変に感じることもあります。

悩みを抱えて相談に来られる方に対して心がけていることはありますか?

依頼者の気持ちを理解してあげなければならないということはあるのですが、依頼者と全く同じ視点で物事を視たのでは、適切な解決方法を提示してあげられません。弁護士は依頼人の代理人であって味方ですが、見通しがないまま依頼者の示した意向のとおりに進めるのでは却って依頼者の利益にならない場合もあるので、客観的な第三者の立場から事件を視るということは忘れず、法律的な解決方法を提示しなければなりません。

たとえば夫婦の一方が、配偶者が不貞をしたので離婚したい、養育費も慰謝料も望まないが配偶者を子供に会わせるのだけは絶対に嫌だと言って相談に来られるとします。相談者にとっては家庭を顧みなかった憎い相手だったとしても、不貞行為があったからといって、子の福祉のための面会交流が当然に認められないとはいえませんし、他方で養育費や慰謝料の金銭面では一定の解決の芽があるように見えます。とはいえ、依頼者の方の悩みや意思を全く無視して回答することもできません。私としては、依頼者の悩みや気持ちと法律的な解決方法の隔たりを埋め、その橋渡しができるようするというのを心がけて、依頼者の相談に応えられるよう心掛けているつもりです。

神戸大学法科大学院への進学を検討している方にむけてひとことお願いします。

予備試験一本で司法試験を目指すことには金銭的・時間的なメリットがありますが、ロースクールにもそれに負けないメリットはあります。特に神戸ローであれば、体系的で深い法的知識を身に着けるための十分な環境が整えられています。教員には、優秀な学者教授陣のみならず法曹三者の実務家教員もおられますし、教員方にはそれぞれ相談可能なオフィスアワーという時間も設定されているので、講義の終了後やオフィスアワーの時間を利用すれば、誤った理解や不鮮明な知識を効率よく消化できます。集中して勉強できるスペースがあり、蔵書も十分、ともに学べる友人もいるのでモチベーションも保ちやすいです。環境を活かせば、体系的で深い知識を効率的に身に着けることができます。入学された方には、存分に神戸ローの環境を利用してもらい、各々の目標達成に向けて頑張っていただきたいです。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
インタビュー実施日:2021年3月3日
インタビュアー及び記事編集者:林 拓巨
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