授業の概要

競争法

 まず、「独占禁止法判例・事例研究」において、受講者は、独占禁止法に係る最新の判例・事例を素材に、国内外で実務上大きな関心を集めているテーマについての理解を深めるとともに、独占禁止法の知識を実践に移す能力を身に着ける。毎回担当者1名を指名し、その報告をもとにディスカッションをする。池田千鶴教授が中心となって担当する。
 次に、「独占禁止法実務I」「独占禁止法実務II」において、受講者は、独占禁止法が関わる案件について、公正取引委員会から調査を受ける立場、および、公正取引委員会に被疑行為を申告したり、相手方に対して民事訴訟を提起したりする立場の両面から、法解釈上の論点や、手続上の論点等、実務上の重要問題についての理解を深める。具体的には、「ハードコアカルテル」「非ハードコアカルテル」「国際カルテル」「垂直的制限(価格制限・非価格制限)」「排他的取引」「取引拒絶・差別的取扱い」「優越的地位の濫用」「企業結合規制」などを取り上げたあと、景品表示法を取り上げ、さらに、民事訴訟や刑事訴訟も取り上げる。
 「独占禁止法実務I」「独占禁止法実務II」は、独占禁止法案件の実務経験が豊富で、国際的に高い知名度をもつ多田敏明弁護士(48期)および長澤哲也弁護士(48期)が、それぞれ日比谷総合法律事務所大江橋法律事務所の所属弁護士とともに担当する。(なお、令和2年度は、両科目を統合して1科目として開講する。)
 論文指導は、池田千鶴教授が中心となって担当する。

知的財産法

  1.  まず、「知的財産訴訟」において、受講者は、特許権侵害訴訟を遂行するにあたって理解すべき手続法上、実体法上の論点を検討するとともに、審決取消訴訟、職務発明関連訴訟、および著作権法、商標法、不正競争防止法その他の知的財産法に関する訴訟についても学習する。講義は、すべて関係訴訟について実務経験の豊富で、国際的に高い知名度をもつ片山英二弁護士(36期)・客員教授および服部誠弁護士・客員教授(50期)が、阿部・井窪・片山法律事務所の所属弁護士とともに担当する。
    次いで、「知的財産契約」において、知的財産権にかかわる契約の実務を学ぶ。受講者は、知的財産契約の基礎知識についての講義を受けたうえで、エンターテイメント契約、特許・ノウハウライセンス契約、共同開発契約の各契約類型について学び、それらと独禁法、M&A、倒産との関係についても学ぶ。さらに、ライセンス契約交渉・ドラフトの実務、海外ライセンス契約、移転価格税制とロイヤリティ監査の実務についても学習する。講義は、同じく阿部・井窪・片山法律事務所所属の弁護士らが担当する。
    また、「エンタテインメント法実務」においては、エンタテインメントに関わる契約その他の法実務を学ぶ。受講者は,著作権法を中心に関連法の基礎知識について講義を受けた上で、映画・テレビ、音楽、出版・漫画、ライブイベント、ゲーム、芸術・デザイン、ファッション等の様々な分野について、最近のトピックを交えつつ法実務を学ぶ。講義は、エンタテインメント法について実務経験の豊富な福井健策客員教授・弁護士(45期)桑野雄一郎弁護士(45期)及び岡本健太郎客員准教授・弁護士(61期)が、骨董通り法律事務所高樹町法律事務所新平河町法律事務所の所属弁護士とともに担当する。
    これらと並行して、「知的財産判例・事例研究」において、知的財産法に係る最新の判例・事例について学び、国内外で実務上関心を集めているテーマについての理解を深める。双方向による授業を通じ、知的財産にかかる判決を分析する能力を養う。島並良教授および前田健教授が講義を担当する。
    論文指導は、島並良教授または前田健教授が中心となって担当する。

国際商事仲裁

 受講者は現在の国際仲裁を支える法的な仕組みと社会的背景を講師陣とのディスカッションを中心として学ぶ。国際仲裁が、国家法だけでなく国際条約やモデル法、各仲裁機関が定める規則、IBA等の国際仲裁コミュニティによる各種ソフト・ロー等から形成されるハイブリッドな枠組によって規律される実態を理解する。とくに仲裁手続において法文化の差異が有するインパクトについての洞察力が必要となる。また国際ビジネス取引の複雑化に伴い仲裁に限定されず多様なADRが進展しつつある現状を把握する必要があり、とくに国際商事調停は重要である。
 この授業の担当者のうちダニエル・アレン弁護士はNYで訴訟弁護士の経験を経て、国際仲裁で世界屈指のフレッシュフィールズ東京事務所で仲裁事件を多数手がけた気鋭の実務家であり、投資仲裁事件でも日本企業の代理人を務めた。現在は森濱田松本法律事務所のパートナーとして同事務所の投資仲裁プラクティスを主導している。もう1人の担当者である栗田哲郎弁護士One Asia Lawyers代表)は日本企業に関するシンガポール及びマレーシアでの仲裁を多数手がけてきており、グローバルスタンダードに沿った国際仲裁実務に精通した数少ない日本人法律家である。齋藤彰名誉教授は、2007年以降Vis Mootの神戸大学チームの指導し、海外の仲裁関係者とのネットワークを築いてきた。ICC仲裁の専門家証人を務めた経験を有する。また国際的な調停機関であるCEDRの調停人資格認定トレーニングを神戸大学においてオーガナイズしてきた。
 このプログラムでは、受講者が実際に国際仲裁を用いることを前提とし、アジアにおいて仲裁実務を主導する実務家や仲裁機関との連携をも重視している。海外のゲストを招いてセミナー方式で授業を行うこともあり、その場合の使用言語は英語となる。また国際仲裁その他の国際ADRのわが国における研究を主導するため、内外の仲裁研究者を招いて理論的な問題を深く議論する機会も設定し、受講者の博士論文作成に向けた研究をサポートする。さらに海外から招いたトレーナーによる紛争解決スキル等を学ぶ専門家教育プログラムに参加する機会も準備される。 

新興国法務

  受講者は、「中国法務」において、中国法務の第一線で活躍するエキスパートからなる講師陣の下、特に中国におけるビジネス展開に関連する法分野について理解を深め、契約および紛争に関する実務能力を身に着ける。カバーする法分野およびテーマとして、中国法概論、M&A、企業再編・撤退、独占禁止法、知的財産法、次世代技術分野と法、アンチダンピング法、紛争解決、当局調査対応等を予定する。中国法務は、森脇章弁護士(47期)および中川裕茂弁護士(50期)が、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の所属弁護士とともに担当するとともに、独占禁止法に関し川島富士雄教授が担当する。
 さらに、受講者は、「アジア法務」において、日本企業の成長のために必要なアジア新興国に対する投資やアジア新興国企業との取引に関連するビジネス法務の概要を理解し、事例演習を通じて基礎力をつける。受講者は、実際の案件に対して基本的な論点を抽出し、さらに問題を解決するための調査の方向性を見定める能力を修得することが目標となる。アジア各国の基本的なビジネス法務を講義で説明しつつ、各種契約が特に重要となるタイ、インドネシア、ベトナム及びインドに関する事例演習においては、以前の講義の内容を復習しながら、ディスカッションを行い、理解の定着をさせる。「アジア法務Ⅰ」は、森・濱田松本法律事務所の中国アジア法務の先駆者である江口拓哉弁護士(47期。現在ベトナムに駐在。過去に中国及びタイに駐在経験あり)及び臼井慶宜弁護士(60期。インド及びベトナムに駐在経験あり)の2名が講義を行い、事例演習のディスカッションをリードする。
 日本企業のアジア進出が加速している中で、日本の法曹にとって、日本の法律だけではなく、アジア全域の法律に対する体系的な理解が必須となっている。アジア全域の法律を理解するにあたっては、各国の法律の体系・歴史に紐づいた理解が必要であり、アジア各国の法域をコモンロー・シビルロー等に分類し、それぞれの法域の特徴を捉えて理解していくことが重要である。そこで「アジア比較法務」においては、アジア各国のそれぞれの最先端の実務的な法分野について、コモンロー・シビルローを比較する観点から、栗田哲郎弁護士(57期。現在シンガポール駐在、シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士)を始めとするOne Asia Lawyers所属の現地駐在の日本人弁護士と各国ローカル弁護士(シンガポール、マレーシア、中国、インドネシア、フィリピン、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、インド)が共同で講義を行う。本講義は、各国ローカル弁護士も参加することから、日本語・英語の両方で行う。
 論文指導は、川島富士雄教授が中心となって担当する。

【履修イメージ】

様々な履修タイプがありうるが、一般的にはできるだけ短期(2年)での修了を目指していただきたい(そのため、課程を修了した後も、TLPの様々な授業科目に参加することができる方策を検討中である)。下記はあくまでモデルであり、各科目の開講時期(前期か後期か)等を保証するものではない。

(1)租税法を専攻分野とし、最低限のスクーリングで2年での修了を目指す場合

1年目 前期 租税法判例・事例研究(週1回)
論文指導(面談またはメールにて,指導教員にテーマの相談)
後期 企業課税(国際租税)(週1回)
論文指導 (執筆開始。適宜,途中原稿を指導教員に提示)
2年目 前期 論文指導 (執筆本格化。適宜,途中原稿を指導教員に提示)
後期 租税手続法・争訟法(週1回)
論文指導 (執筆完了)/年度末に博士論文試験(面接)

(2)競争法を専攻分野としつつ、知財法にもまたがるテーマでの論文執筆をし、幅広くスクーリングをおこなったうえで、3年での修了を目指す場合

1年目 前期 独占禁止法判例・事例研究(週1回)
知的財産訴訟(週1回)
知的財産判例・事例研究(隔週1回)
論文指導(面談またはメールにて,指導教員にテーマの相談。 競争法と知財法の双方にまたがるテーマを選択)
後期 独占禁止法実務(週1回)
知的財産契約(週1回)
知的財産判例・事例研究(隔週1回)
論文指導 (執筆開始。適宜,途中原稿を指導教員に提示)
2年目 前期 独占禁止法判例・事例研究(週1回)
独占禁止法実務I(週1回)
知的財産訴訟(週1回。2度目なので聴講扱い)
論文指導 (執筆継続。適宜,途中原稿を指導教員に提示)
後期 独占禁止法実務II(週1回)
企業課税(国際租税)(週1回)
知的財産契約(週1回。2度目なので聴講扱い)
論文指導 (執筆継続。適宜,途中原稿を指導教員に提示)
3年目 前期 国際仲裁概説(週1回)
論文指導(執筆本格化)
後期 論文指導(執筆完了)/年度末に博士論文試験(面接)

(3)国際商事仲裁を専攻分野とし、1年半の休学を挟んで、2年での修了を目指す場合

1年目 前期 国際仲裁概説(週1回)
論文指導(面談またはメールにて,指導教員にテーマの相談)
後期 休学
2年目 前期 休学
後期 休学
3年目 前期 論文指導(執筆開始。適宜,途中原稿を指導教員に提示)
後期 国際商事仲裁実習(週1回)
国際投資協定仲裁実習(週1回)
論文指導 (執筆本格化。適宜,途中原稿を指導教員に提示)
4年目 前期 論文指導 (執筆完了)/年度末に博士論文試験(面接)

※上記の場合は、9月修了となる。休学は半年単位で、合計で最大3年間まで(休学時の授業料は発生しない)。