大学院の歩み

地理的・分野的にクロスボーダーな仕事の魅力

上野 洋平 さん

第7期修了生
べーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)・弁護士


2012年 神戸大学法科大学院修了
2012年〜2014年 海外勤務(リーガル・インターン)
2015年 司法修習修了(68期)
2015年〜東京弁護士会弁護士登録、現職

本法科大学院修了後、現職に至るまでの経緯を教えてください。

私の場合、ロースクールを修了後、司法試験に泣かされましたので(刑事系がとにかく苦手でした。)、同期の目から逃げるように文字通り国外逃亡して、マレーシア・シンガポールの法律事務所におけるインターン等を経た後、幸いにして試験に合格し、横浜での修習を経て現在の事務所に入所しました。

今のお仕事を選ばれた動機やきっかけをお聞かせください

元々クロスボーダーな仕事ができる職に就きたいという意欲が強かったものの、法曹職に就くことは大学3、4年生くらいまで全く考えていませんでした。一般企業への就活を進めていたものの、朝がとにかく苦手でしたので、働き方の柔軟性という観点から弁護士という選択肢も模索するようになり、とりあえずロースクールを受けてみて、受かったら入ってみようかという安易な動機でこの世界に入りました。このような経緯でしたので、法曹職のうち弁護士を選び、かつその中でも渉外系弁護士としてのキャリアを選ぶことに対する悩みはあまりありませんでした。

今のお仕事の概要を教えてください。


勤務先の事務所にはいくつかのグループが存在しており、私はコーポレート・M&Aグループに所属しています。そのため、M&A案件やいわゆるReorg案件(多国籍企業のグループ内再編案件)等が仕事の多くを占めます。また、税務分野の仕事にも多く携わっています。税務分野とM&A分野の相性は非常に良く、M&AやReorg案件の前捌きとしての税務アドバイザリー案件に関わらせて頂くことがある一方で、他方で税務訴訟(法人税、移転価格、関税等)への関与もあります。

どのようなところに仕事の面白さを感じますか。

2通りの意味で、クロスボーダーという点が挙げられると思います。関わっている仕事のほとんどは英語が絡んでいます。日本法を英語で説明する場面もありますし、逆に海外法制を英語で尋ねる場面もあります。海外オフィスの同僚と協働しながらクロスボーダーで仕事を進めるのは非常に刺激的です。

また、仕事分野という意味でのクロスボーダーという観点もあります。例えばM&A取引ではDD、ドキュメンテーション、クロージング、PMI等の各段階ごとに多様な要素が含まれており、それ自体奥深い分野ですが、これに加えて、税務分野という業務面のクロスボーダー要素が加わると、これまた大変面白い領域になってきます。

地理的のみならず業務分野的なクロスボーダーの要素が混在していると、難易度が格段に上がり、しばしば苦戦を強いられるのですが、他方でエキサイティングかつ、チャンスの多い領域ではないかと思っています(特に税務分野の場合、地理的クロスボーダーの要素が加わると租税条約やタックスヘイブン税制等の例を出すまでもなくプラクティスの幅が一気に広がってきます。)。

お仕事で苦労されているのはどのような点ですか。


クロスボーダーという点には面白みを感じるのも確かですが、同時に苦労するポイントも多く伏在しているように思います。日本法の仕組みが海外法域の人たちにとっては「ありえない」もののように捉えられることも多く、なぜそのような仕組みになっているのかというから論理立てて説明してあげないと納得してもらえない場面がよく出てきます。このような時、語学の問題は当然として、やはり問題になっている日本法の仕組みを自分自身よく分かっていないと相手にも伝わりません。

また、アウトバウンドM&Aのプロジェクトマネジメントをしているとありがちな場面なのですが、日本法資格者からすると「ありえない」ような海外法制に出くわし、背筋が凍らされる思いをすることもあります。海外法制だから専門外、とするのではなく、ロイヤーとしてのコモンセンスを発揮して、事前に地雷が埋まっていないか検知するスキルが求められるのですが、この地雷検知アンテナの感度をいかに高めていくかという点にも難しさを感じています。

本法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか。


齋藤彰教授のアレンジのもと行かせて頂いたマレーシアの法律事務所へのインターンの経験は、渉外弁護士として働くということを考える上で非常に良い機会だったと思います。マレーシア法云々というよりも、英語での法律ビジネスメールの書き方や、働き方、客とのかかわり方、味わった空気感の方がむしろ今に影響しているように思います。

 

また、いくら渉外案件を扱うとはいえ、あくまで日本法資格者として仕事をする以上、そこに限界がありかつ強みがあるはずで、そうすると、日本法に対する理解を深めることこそが渉外分野でも力を付ける近道になるのではないかと考えています。その文脈からすると、ロースクールでの授業、とりわけ対演行政法の授業は自分の武器になっているなと感じます。行政法は一見現在の仕事とは関係がなさそうにも思えますが、たとえばM&A取引では往々にして許認可規制等が問題になります。そうすると、今まで見たこともないような複雑に絡み合った個別法と対峙し、かつそれを英語で表現しなくてはならないので、判例や各論点を個別法の条文を追いながらひたすら特訓する対演行政法で培った技術は実務でも直接役に立つ場面が多いです。

さらに、佐藤英明教授(現慶應義塾大学教授)の租税法の授業も今のキャリア選択に大きな影響を及ぼしていると思います。同教授が授業中で租税は社会経済の空気抵抗だとおっしゃっていたのをよく覚えています。当時、将来のキャリアとして、クロスボーダー、弁護士、トランザクション系業務、ということは考えていたものの、そこに税務というピースを付け加えるきっかけを下さったのが同教授の授業でした。

ご自身の将来像をお聞かせください。


正直なところ、まだ確たる将来像というようなものはありません。サービス業なので、クライアントのために何ができるか、という観点が大事なのはもちろんですが、他方で自分の好きなこと、面白いと感じられることを突き詰めて行き、そのような仕事を続けていくことが結果としてそれがクライアントの利益にもなるような形でキャリアを構築して行ければ良いなと考えています。

インタビューに協力してくださって、ありがとうございました。今後のさらなるご活躍をお祈り申し上げます。
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