大学院の歩み

渉外法務と米国留学~ポジティブな企業活動を手助けするために~

渡部 真樹子 さん

第4期修了生
弁護士法人梅ヶ枝中央法律事務所・弁護士


ご経歴
2001年 神戸女学院中高等部卒業
2006年 京都大学法学部卒業
2009年 神戸大学法科大学院修了(第4期)
2010年 最高裁判所司法研修所入所(新64期)
2011年 弁護士法人梅ヶ枝法律事務所入所
2016年 米国デューク大学ロースクールLLMコース修了、米国ニューヨーク州司法試験合格


日本の弁護士であり、米国デューク大学ロースクールLLMコースを修了、その後受験されたニューヨーク州司法試験に合格されたばかりの渡部真樹子弁護士にSkypeを用いてインタビューを行った。
明るくハキハキとされた口調で仕事のやりがいなどを語る、渡部弁護士の力強い印象が残るインタビューであった。
渉外法務や、海外への留学を視野に入れている受験生は多いことだろう。インタビューとして、留学の準備や米国のロースクール制度についても質問させていただいた。皆さんの進路選択に役立ててほしい。

法科大学院に入学されるに至った経緯を教えてください。


大学時代は、法曹のほかにも、外交官にチャレンジするという選択肢も考えました。しかし、弁護士の世界は、チームワークがありながらも、1年目から方針決定にも主体的に携わることができるという点に魅力を感じ、また、新たに法曹養成制度が立ち上げられたところでしたので、法律家になることを決心し、神戸大学法科大学院の未修者コースに入学しました。

留学前に従事されていた業務の内容や、その魅力を教えてください。


一般民事、刑事事件、国内企業法務案件に加えて、国際取引案件や多国籍カップルの離婚・相続問題に携わってきました。同期の弁護士と比較すると、こういった渉外案件を多く担当してきました。

渉外案件の魅力ですが、例えば、日本企業の海外進出に携わる場合であれば、日本の優れた技術力を海外に売り込む場面に立ち会うことができ、日本人としての誇りをもって業務に臨むことができます。また、ダイナミックな経済の流れを肌で感じることができることもやりがいの一つですね。依頼者の意見を聞きながら、前向きな目的を達成するために交渉したり、法的なアドバイスをしたりすることができる点に魅力を感じます。弁護士としては、冷静な目で将来まで俯瞰し、リスクや問題点に対応できる条項を提案することが求められますので、決して前向き一辺倒であってはいけないのですが、未来志向のビジョンを依頼者と共有しながら仕事ができる点におもしろみを感じます。

米国に留学され、ニューヨーク州の司法試験を受験するに至った動機を教えてください。

私は高校生の頃、高校の交換留学プログラムを利用して、米国の現地高校へ一年間留学した経験があります。その頃から、将来的に専門的な内容を米国で学びたいとの思いを抱いていました。その後、弁護士となり、国際取引などの渉外案件に携わるうちに、米国の法律を体系的に理解したいとの思いが強くなりました。また、渉外業務を行うにあたっては、米国の法曹資格を保有していることが大きな強みになることも留学を決心する後押しになりました。

米国のロースクールには、他国の法曹有資格者などを対象としたLLMという1年間のコースがあり、これを修了すると、アメリカのいくつかの州の司法試験の受験資格が得られます。私はこのLLMコースに在籍していました。

留学されて良かったことや特に身につけられたことはありますか。他方、留学生活で苦労された点があれば教えてください。


私の通っていたDuke大学ロースクールでは、LLMのクラスは約40カ国から集まった100名程のクラスメイトで構成されていました。米国人だけでなく、多様な背景を持つ彼らと知り合えたことも、留学して良かったことの一つです。また、彼らと交流する中で、価値観の異なる相手方とどう交渉するのか、自分のスタイルを探ることができました。

少し具体的な話をすると、米国のロースクールでは、模擬交渉や模擬仲裁などを少人数で行う授業を履修しました。米国人や他国の留学生の中には、アグレッシブに自らの利益を追求する者もおり、私とは異なる交渉スタイルに困惑することもありました。自分のやり方は国際社会では生ぬるいのかと思うこともありましたが、教員からは「相手方の要求を慮って穏やかに交渉を進められている。」と思いがけず良い評価を受けました。留学をして初めて、国際交渉の際に必ずしも相手方のスタイルに合わせる必要がないという発見ができ、そのことは自信にもなりました。

苦労した点は、「海外にいる」環境を維持することですね。ネット技術の発達した昨今、米国でも日本にいるのと同じように家族や友達と通話したり、テレビ番組を視聴したりすることができます。また、クラスメイトには日本人留学生もいました。易きに流れて留学している意義を失わないよう、意識的に日本からは距離を置き、積極的にアメリカ人や他国からの留学生と交流するように心がけていました。

留学にあたりどのような準備をされましたか。

一般的に、留学に際しては、学部・ロースクールでの成績証明書に加えてTOEFL・自己推薦文・他己推薦文の提出が必要となります。

過去の留学経験もあって、幸いにもTOEFLに関し特段の準備は必要ありませんでした。将来的に留学を検討している皆さんは、ある程度時間の取れる司法修習生のうちに英語の勉強をするのがよいと思います。

また、神戸大学には在外研究のご経験のある優秀な先生方が多くいらっしゃいますよね。そのような先生方から海外の大学について話を聞いておくことも、留学にあたりプラスになると思います。

ニューヨーク州の司法試験を受験されての感想などをお聞かせください。

米国のロースクールでは、1年次に米国法の基礎を勉強して、その後は、個人の興味に応じて、極めて実務的・専門的な内容を学びます。私たちLLM留学生は、母国で法学の基礎知識を培ってきたことや、既に一定のキャリアを積んでいることから、2年次以降の専門的科目を履修することが多いです。2年次以降の科目は、そのほとんどが司法試験の出題科目とは異なりますので、ロースクールを修了してから司法試験までの約2ヶ月の間に、試験に必要な基本法の知識を一から詰め込むことになります。英語を母語とする生徒達と比べて、読解や文章を書く速度が圧倒的に遅く、その差をカバーする必要もあるので、かなりの勉強量が必要ですね。

他方、試験で問われる内容は日本の司法試験の方が深いように感じました。アメリカは、コモンロー体系なので、判例は非常に重要なのですが、こと司法試験に関して言えば、日本の試験の方が知っておくべき判例の数が多いですし、その理解もより高度のものが求められていると思います。アメリカでは、所属する事務所の大小を問わず、専門分野に特化することが求められるケースが多いのですが、日本ではゼネラリストが弁護士の出発点であるという考え方がまだ一般的かと思います。そのような違いが、ロースクールの開講科目や司法試験制度にも反映されているかもしれませんね。

将来的に、どのような方面にお仕事を進められる予定ですか。

留学後は、マレーシア・ベトナムの現地事務所で約1年間、客員弁護士として執務をする予定です。執務先の1つは、神戸大学の齋藤彰教授ご担当のアジア法夏期集中講座に参加させていただいた際に知り合った弁護士が代表を務める現地事務所です。客員弁護士として、日本企業の東南アジア進出の手助けができればと思います。

神戸大学法科大学院で学んで良かったことや、役に立っていることはありますか。

比較的少人数の法科大学院ということもあって、学生同士でも、先生方との関係でも距離が近く、周りから刺激を受けて自分を高めてゆける環境のあることが神戸大学法科大学院の長所だと思います。

また、先ほどお話しした夏期集中講座への参加に話を戻せば、私は学生時代には齋藤彰教授の授業を受ける機会がなかったのですが、神大ローの卒業生ということもあり、快く講座の参加を認めてくださいました。実務に出た後も先生方がサポートしてくださることは大変ありがたいですし、だからこそ、私たち実務家も神大に何か還元しなければと思います。その意味で、在学生・修了生を支援する良い循環が出来ているのではないでしょうか。

また、法科大学院で基本的な法律の考え方や判例の読み方を鍛えられたことは、応用の求められる実務で非常に役立っていますね。

最後に、神戸大学法科大学院への進学を検討されている方へのメッセージをお願いします。

法曹の世界は、良い意味で「狭い」世界であり、先ほどの私のアジアでの研修の件のように、思わぬところに貴重なつながりを見つけられることがあります。神戸大学は、先ほど申し上げたように、在学中だけでなく、卒業後も、先生方や在学生とのつながりが深いです。受験生や在校生の皆さんには、ぜひ神戸大学で貴重な機会を活かしていただきたいですね。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
インタビュー実施日:2016年8月11日、11月15日
インタビュアー及び記事編集者:有江一馬
大学院の歩み