大学院の歩み

「地域社会を支えるインフラとして」

平田 尚久 さん

第8期修了生
弁護士法人神戸シティ法律事務所・弁護士


ご経歴
2003年 3月 京都大学文学部卒業
2003年 4月 民間企業において勤務(合計約7年間)
2013年 3月 神戸大学法科大学院未修コース修了 
2013年 9月 司法試験合格
2014年12月 司法研修所終了(第67期)、兵庫県弁護士会登録
      弁護士法人神戸シティ法律事務所勤務

公務・役職等
兵庫県弁護士会 空き家・老朽危険家屋対策プロジェクトチーム

平田先生は文学部のご出身ですが、なぜ法科大学院に入学されたのでしょうか。

京都大学文学部を卒業して7年ほどは、BtoBのインターネットの広告代理店に勤務していました。法科大学院入学当時には、既に結婚もして、子供もおりました。だから、安定した生活を飛び出して、法科大学院に入学するというのは、正直なところかなりの決心が必要でした。

ただ、以前から、弁護士になって人々の生活に密着した仕事をしてみたいとは考えていたんです。弁護士という仕事は、依頼人の権利を守って、その喜ぶ顔を直接に見ることができるように思っていますし、町の中に溶け込んで仕事をするので、自分の子供にも仕事を身近に感じてもらうことができます。そういったところに、それまでの仕事にない魅力を感じました。

また、当時私が働いていた分野は非常に競争が厳しく、それと比べると弁護士の世界はいろんな可能性があふれているように見えました。人間の活動には必ず法律が付きまとうわけですから、世の中で新しい動きがあればそれについて専門知識を持った法の専門家が必要になるのではないか、いち早く手を挙げて自己研鑚に励むことでそのチャンスを掴むことができるのではないかと考えたのです。そして、その考えは今でも間違っていなかったと感じています。

法科大学院に未修者コースがあったことも、私の背中を押してくれました。入学前は六法に触れたこともなかったのですが、未修者コースは、初学者でも3年間で司法試験に合格できるようカリキュラムが組まれています。また、法律学の最先端で活躍される先生方に教えていただけるということから、私のような初学者でも基礎からしっかりと学ぶことができるという安心感がありました。

確かに、未修者の合格率はその当時でも20%を下回っており、狭き門でしたが、私には合格、不合格は自分の努力次第で、決まるものであって、仕事と同じようにハードに勉強すれば、必ず合格できるという強い信念がありました。

なぜ、勤務先として神戸シティ法律事務所を選ばれたのですか。


神戸シティ法律事務所フロントにて

市民にとっても企業にとっても、弁護士は重要な社会的インフラだと考えています。東京や大阪には専門の弁護士がいて、最先端のサービスを受けることができます。しかし、神戸のような、地方の都市にあっても、東京と同じようにインフラが整っていなければ経済は発展しません。私の所属する神戸シティ法律事務所は、神戸そして兵庫県における法的インフラの充実を目指しています。そのために、海外に進出する中小企業の支援を目標として、ミャンマーにデスクを開設したりもしています。東京や大阪の大手事務所ではなく、地方都市の事務所が、このようなチャレンジを行っていることに、ワクワクするものを感じました。

それと、私は兵庫県出身で、地元の街を支えていきたいという想いを持っています。事務所の設立趣旨や本事務所の井口代表の熱意にも共感できるところが多く、ともに新しいチャレンジをして行きたいと考えたのが、神戸シティ法律事務所にお世話になった理由です。

お仕事の概要はどんなものですか。

事務所としては、年間1300件ぐらいの案件を受任しています。私も現在、60-70件の案件を担当しており、かなり忙しい状況が続いています。

受任している案件は、法人、個人の比率が半々といったところです。とくにこれといったジャンルに特化しているわけではなく、内容は多岐にわたります。案件ごとにきちんと整理をして、一番いい解決方法を考えていくというのが仕事の基本的姿勢です。そのことは個人相手でも、法人相手でも変わりません。

そして、このように仕事を進めていく上で、もっとも大事だと私が考えているのは、きちんと法律関係を整理することです。これは、司法試験で問われていることと本質的には変わりません。当事者は誰か、誰と誰の間にどんな債権債務関係があるのか、それを事実関係としてだけではなく、法律関係としてきちんと整理することが大切です。整理ができれば、筋道が見えて方針を立てることができますし、主張立証すべき、要件事実も分かります。ここまでくれば、勝つためにどういう事実が揃っていないといけないか、それはどういう証拠で裏付けられるのかという、次に自分のやるべきことが見えてきます。

なにかお仕事で苦労されていることはありますか。


神戸シティ法律事務所デスクにて

実際の仕事は、想像以上に厳しいものであると感じています。法律の知識を広げていけば、自分の出来ることの幅は広がると考えていましたが、それほど甘くないことが半年ぐらいでようやく分かってきました。

弁護士は負っている責任の重さが会社員とは比べものにはなりません。会社員の時には、自分がミスしたとしても自分が債務を負うことはあまり考えていなかったし、考える必要もなかったのですが、弁護士の場合は、弁護に過誤があると、直接自分で債務を負うことになります。弁護士はこのようなリスクと背中合わせで仕事を進めていかないといけません。そういったリスクの存在を自分で痛感して初めて、より敏感に事実が見える様になってくるのだと思います。

また、依頼者に対してしっかり結果を残さないといけないので、甘い見通し立てることはできません。その反面、厳しいことばっかり言っていても、仕事になりません。依頼者は常に真剣です。真剣な依頼者にいい加減で楽観的な見通しを示して、無駄な訴訟に引きずり込み、敗訴させていたのでは、満足を与えることはできません。依頼者以上に自分が事実に真剣に向き合い、判例や文献を調べて、しっかり裏付けのある見通しを立てて対峙しないと、依頼者との間に信頼関係は生まれません。

事実に敏感になり、真剣に向き合うようになれば、自分がこの事件を何とかしなければならないという思いがより強くなります。そんな経験を積むことで自分の出来ることの幅が広がるのだと思います。

弁護士の仕事のこのような厳しさが、やりがいであり、苦労しているところでもあります

法科大学院で学んだことを仕事の中でどう生かされていますか。

ややこしい案件を処理するとき程、基本的な知識とか、制度趣旨が頭に叩き込まれていることが大切になります。

たとえば、意思表示とは何か。契約の成立要件は何か。目の前の事案について法律関係を整理しようとした時に、それがなかなか見えてこない時があります。契約が成立したことになっているけれど、そもそも意思表示があったのか。申込はあるようだけれども、承諾はいつなされているのか。分析していくと、意思表示が存在せず契約が成立していないという構成もあり得るのではないかということが見えてくるときがあります。契約が成立する為には何が必要となるかといったことが、頭の中に染みついていれば、事案を見ればピンときます。これは、単に法律要件を覚えているだけでは出てくることのない感覚です。より基本的な概念が固まっているかどうかが、実は事案の解決にとって大切となることがあると思います。

例えば、不法行為法の制度趣旨は損害の公平な分担ですよね。事件の解決が難しくなってきた時に、似たような判例があることを調べることは重要だけれども、類似判例に照らすと、過失割合は10対0になりそうだ。しかし、事案をシンプルに見た時に、その結論ではなんとなく違和感をもつ。そのような場合には、もう一度、損害の公平な分担という観点から、どこがおかしいのか必死に考える。そこから事件解決の糸口が見つかることがあります。違和感をもつことができるかどうかは、制度趣旨が頭に染み付いているかどうかにかかっていると思います。

このように法科大学院の授業で頭に染み付いた基本的な知識や制度趣旨が、仕事をする上で活かされていると実感しています。

10年後のご自身の将来像について教えてください。

兵庫県という地に根を張る木になっていたいです。地元に貢献するという信念を持って、きちんと仕事をする弁護士になりたいと思っています。

後輩たちへのメッセージを頂けますか。

弁護士業界は厳しくなっていると言われています。弁護士は楽ができる職業ではないし、一旗揚げて大金を手にしようと思っても難しいかもしれません。

しかし、能力と意思があって、行動がそれに伴っていけば、可能性はどこまでも広がっていく業界であると思います。まっとうに努力をして、力をつけた弁護士は、厳しい時代にも、必要とされることになるでしょう。

たゆまぬ真剣な努力は必要となりますが、楽しく、やりがいもある仕事ですので、司法試験合格をめざして、頑張ってください。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
インタビュー実施日:2016年6月19日
インタビュアー及び記事編集者:久米 浩文
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