大学院の歩み

被疑者・被告人の未来をより良い方へ ~刑事弁護人としての心構え~

福島 佳樹 さん

第7期修了生
弁護士法人ひょうごパブリック法律事務所・弁護士


ご経歴
2004年 千葉大学法経学部総合政策学科 卒業
同年から 一般企業で勤務
2009年 神戸大学法科大学院未修者コース入学
2012年 同修了、司法試験合格
2013年 司法修習修了(66期)、弁護士登録、弁護士法人ひょうごパブリック法律事務所入所

弁護士になった動機・現在の事務所に入った経緯をお聞かせください。

大学在学中は経済・経営系の分野に興味があり、卒業後は5年ほど企業勤めをしていました。入社した企業は上場企業でしたが、下請である中小企業に対する姿勢に疑問を感じたため、中小企業をサポートしたいと考えるようになっていき、中小企業診断士の資格取得なども検討しましたが、企業間の力関係の是正という面では、より直接的にサポートできそうな弁護士を志望しました。

現在の事務所には、修習中からお世話になっており、声をかけていただけたので、改めてお世話になることにしました。当事務所は、裁判員裁判の開始や被疑者国選弁護の拡大に合わせて設立されたため、受任している事件の中で刑事事件の割合がかなり高く、それを強みとしています。もともと刑事弁護はやろうと思っていましたが、こんなにどっぷり浸かることになるとは、修習が始まったころには想像もしていませんでしたね。

現在の業務の魅力をお聞かせください。

まず、刑事弁護に興味をお持ちの皆さんの多くは、「無罪を勝ち取りたい、冤罪の被告人を救いたい」という考えをお持ちかもしれませんが、実際にはそのような機会はなかなかありません。基本的には犯罪を行ったことを認めた上で、情状弁護などを行うことがほとんどです。そして、罪を犯してしまったことを認めた場合、その行為や前科の内容によって、執行猶予がつくか実刑になるか、という程度の、訴訟のおおまかな結果はいかんともしがたいことも多いのが現状です。もちろん、無罪を勝ち取ったり、執行猶予が付くか微妙な事件で執行猶予を勝ち取れたりした時は嬉しいですし、感謝していただけることが多いですが、だれが見ても勝ちであると分かる結果を得られることはそう多くありません。一方で、無罪を勝ち取ったり執行猶予を取ったりしたわけではなく、実刑判決を受けた被告人から感謝していただくこともあります。実際、弁護士の活動のおかげで人生が変わるようなケースは極稀ではありますが、そこまでは至らなくても被告人に感謝してもらえると、被告人の今後をいい方向に導くきっかけ作りができたのかもしれないな、と思えますし、やっていてよかったと感じる瞬間ですね。

そのためには、ただ法律的に正しいことを伝えているだけではダメで、被疑者・被告人の気持ちを想像して、まずは話を聞くことが重要となります。被疑者・被告人の周りは敵だらけの状況であり、彼らの味方になってあげられるのは弁護士だけなので、「この先生だけは自分の言うことを聞いてくれた」と思ってくれれば、被疑者・被告人もこちらを信用して、腹を割って話してくれるようになります。そういった信頼関係を築くことが、刑事弁護には必要だと思います。

確かに、国選弁護は金銭的に利益は出にくいですし、時間もかなり拘束されますが(少年事件はなおの事)、裁判員裁判制度がまだ過渡期で運用状況も未だ流動的であることも踏まえれば、柔軟な発想を持った若い人の方がよりよい弁護活動を行うことも可能だと思います。そのため、これから弁護士になろうとする方々がしっかりと取り組んでみようと考えるにはいい分野ではないかと思います。

一方で、苦労する点、難しさを感じる点はありますか。

刑事弁護は「人生観・人間観」が何よりも重要となります。民事事件の場合は、理詰めで主張を組み立てて書面を書くことが多く、依頼者との打ち合わせの際はともかく、訴訟に出てくる範囲では感情的、情緒的な主張を組み立てる場面はそう多くありません。一方で、刑事事件、とりわけ情状弁護の場合は、ただ自分が勉強してきて得た法律的な知識や経験に基づいてアドバイスをするだけでは足りません。罪を犯してしまったのですから、それを非難するのは簡単でしょうが、証拠やご本人のお話の中から、起こった出来事の別の面に光を当てられないか、考えていく必要があります。理詰めで話を進めるだけでなく、「被告人にはこんな事情があって、やむを得なかった」等の酌むべき事情を絡め、最後の弁論に想いを込めて臨むことが大切だと思っています。また、弁護人として、被告人とまったく同一化してしまわないように気をつけています。もちろん被告人の味方となり、同じ目線に立って被告人の言葉に耳を傾けつつ、その主張が法的に意味のある主張とできるかどうかを考える必要があります。とはいっても、被告人は事件の一当事者としての体験しか語ることはできませんし、過去のことですから記憶違いもありますから、客観的な状況や、被害者側からの視点など、できるだけ具体的に想像し、事件の全体像をイメージすることが大切です。それには自分のそれまでの経験や、持っている価値観などが自然と反映されてしまいます。やりがいも大きいですが、証拠を見たり、話を聞いたりするときに、素直に見聞きし、想像する、これが難しい点です。

また、刑事弁護に当たっては、身体拘束されている方との接見等が多く、弁護士から出向かなければならないため、事務所にいる時間が少なく、起案などの作業を行う時間がなかなか取りづらいのも苦労する点です。かつては南淡路まで週に4,5回会いに行ったこともあります。拘置所に行くのもバスや徒歩で40分はかかるので、どうしても移動の時間が多くなってしまいます。

そして、初回接見は特に重要なので、「これから起案をしよう」と考えていた矢先に新たな事件の依頼が入り、初回接見に行かなければならなくなることも多く、予定が組みづらいのも大変ですね。ただ、取り調べの際にどういった対応をすべきか、初回接見時に被疑者に伝えることができれば、それだけで記憶と違う供述調書がつくられることがないように気を付けてもらうこともできますし、初回接見のやり方次第では、有罪になるか不起訴で済ませられるかが分かれることもあります。そのため、その後の弁護活動のためにも、優先順位はかなり高くなります。

また、裁判員裁判に関しても、当事務所は兵庫県下の裁判員裁判のおよそ3分の1を受け持っているのですが、書面の提出機会が普通の刑事事件に比して多く、また審理が連日に及ぶのでその間は他の事件を扱えないのは苦労します。その上、尋問の内容に応じて次の日に行う予定だった弁論の内容を組み直す必要も時には生じますし、そのような場合は泊まり込みで作業を行う人もいます。このように、通常の事件に比べると負担も大きいですね。

少年事件も手掛けておられるとのことですが、通常の事件と比べて特に気を付けている点はありますか。

まず、事件を起こしてしまった少年の間違った考え方に気づかせて反省させ、審判の段階で本人の口からきちんとした反省の弁が述べられるようになってもらわなければならないため、審判までにそこまで至れるように面会を繰り返さなければならないのが大変です。また、本人だけではなく、親や友人など、周辺の交友関係からもお話を聞いて、その少年に果たしてどんな問題があるのかを把握し、必要があれば親の子供への態度なども改めてもらうように仕向けなければなりません。周辺の環境との調整は、少年事件においては通常の事件よりも欠かせない重要な事柄だといえます。その中で、少年に性格的な歪みや能力的な特徴などがないかを想像し、対応を考えていくことも同時にしなければなりません。鑑別所が行う鑑別結果を親御さんに報告する際、親が今後その歪みを直すためにどのような接し方をしていけばよいかについて、自分なりの見立てを一言添えてあげるなどは意識的に行っています。

少年事件はやろうと思えばどこまでも、何でもやれる事件です。そのため、片手間でできるような性質の事件ではありません。少年事件は本当に難しいですし、通常の刑事事件以上に金銭的には厳しく、本当の意味での赤字になることもありますが、しっかり少年やその家族などと向き合っていれば、更生し変化していく過程が大人以上に分かるので、やりがいを感じる仕事だと思います。

法科大学院でどのような勉強をされていましたか。

私はいわゆる純粋未修で入学したので、最初のうちは法律家の発想がさっぱりわかりませんでした。そのため、予習を中心に行って授業の内容が分かるように努める一方で、授業後には先生に質問に行って議論をしたりしていました。また、単純に司法試験に合格するためだけの勉強ではなく、法的な思考力を鍛えることを念頭に置いて勉強していました。具体的には、予習の際には、条文の趣旨などを自分でまず考えてみて、その後に文献をあたってみることで、自分の素の発想と、法律家の思考との相違点を確認するという経験を数多く積んで、自分の発想を法的に意味のある発想に近づけられるように意識していました。これは現在の弁護活動においても、こういう考え方もあるのではないか、という引き出しになっている面はあると思います。法科大学院では判例を踏襲する形での学習が主だと思いますが、実務においてはこちら側にとって不利な判例がある場合でも戦わなければなりません。私は未だ担当したことはありませんが、実際に、「死刑が違憲だ」という主張は、判例との兼ね合いでは認められる見込みは低いですが、しないわけにはいかないこともあります。また、判例も絶対のものではありませんから、その射程を考え、時代や状況の変化や、事案の違いを意識して、柔軟に主張を組むことができれば、無罪や全面勝訴までいけるかどうかはともかく、例えば民事では和解を有利な方向に話を進められることもあります。

最後に、神戸大法科大学院の後輩や未来の入学者に向けて一言お願いします。

司法試験はゴールではなく、法曹としての職に就いてから何をするかの、いわばスタートに過ぎません。資格を得て初めて皆さんがやりたいと考えている何かができるようになるのであって、それを間違えてはいけないと思います。法律はあくまでも何かを行うための「ツール」であり、使いこなせるような形で学習していただきたいと思います。そのために、教授や同期をフル活用し、いろんな議論をしてください。神戸大法科大学院にはそれができる人たちがたくさん集まっているはずです。

そして、刑事弁護に関していえば、それまでの自分の生活の中ではなかなか接することのなかった方々と接する機会が増えます。そのため、学生の間に、意識的に色んな価値観の人間に接して、その多様な価値観を受け入れられるようになってほしいと思います。

また、未修の方、特に純粋未修の方は、何よりもまず「法学とは何か」というところからのスタートになると思います。法律家の発想と自分の素の発想がかけ離れていることも起こりうるかもしれませんが、それまでの自分の考えに固執しすぎず、神戸大法科大学院の方式に頑張ってしがみついてください。そして、勉強のやり方など迷うこともあるかもしれませんが、周りに話を聞いてみて、自分に合ったやり方を早く見つける努力をして欲しいと思います。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
インタビュー実施日・場所:2016年9月7日 ひょうごパブリック法律事務所
インタビュアー及び記事編集者:杉原 拓海
大学院の歩み