大学院の歩み

検察官という仕事。選択肢としての検察官

水野 晶子 さん

第5期修了生
検察官


ご経歴
2008年 神戸大学法学部卒業
2010年3月 神戸大学法科大学院卒業
同年9月 司法試験合格
約1年の司法修習を経て
2011年12月 検事任官 大阪地検、東京地検等の勤務を経て、現職(さいたま地検)

先生の経歴を教えてください。

私は、愛知県出身で愛知の高校を卒業した後、神戸大学の法学部に入学しました。その後、2008年に神戸大学のロースクールに進学し、2010年度の司法試験に合格しました。神戸大学ロースクールでは5期、修習は64期になります。そして、修習を終えた後、現在まで検察官として勤務しています。

大学3年生の途中まで、がっつりテニスをやっていて(サークルの副部長)、今もテニスをやってます。

法曹を目指したきっかけ・検察を志したきっかけを教えてください。

高校3年生のとき、祖父が交通事故に遭いました。その事故はかなりひどいものだったんですが、相手側が無保険だったんです。それで、弁護士さんにお願いすることになりました。でも、その中で相手のことを許せない気持ちが強くなったり、理不尽さを感じたり、弁護士さんにももっとやりようがあったんじゃないかって感じるようになりました。こういう経緯があって、神戸大学の法学部に入って弁護士を目指しました。だから、当初は完全に弁護士志望でしたね。

次に、神戸大学の学部の頃です。刑事系は得意ではなかったし、全然好きではありませんでした。学説論争のイメージが強くてで、あんまりおもしろくないと思っていました。断然民事系のほうが好きでしたね。だけど、ロース―クールに入って、刑事訴訟法は面白いと思ったんですよ。池田公博先生の授業でした。(検察官になってもその時の授業の考え方は役に立っていると感じます。)ロースクールでそんな風に感じても、それでもその時点では、将来は弁護士になろうと思ってました。学部、ロースクール時代を通して、志望は検察官が一番低かったですね。

それが変わったのが司法修習の時です。当時の修習制度の最後の方にあった検察修習で、教官から褒めてもらえたことがきっかけでした。それは、模擬弁解録取の機会で、教官が被疑者役をされている時のことでした。事案としては万引きの事案で、本は持っているんだけど「万引きしていない」と言い張っている被疑者から、私(検察官役)が取り調べをするという実習でした。そこで投げかけた私の質問が教官の目に留まって、「検察官にならないか」と声をかけられたんです。私自身、そこで初めて検察官に興味をもったんです。他にも、その後の修習中に、ある女性検事とお話したことがあって、すごく熱い方で、この人と仕事したら楽しそうだなぁって思ったんです。そういった司法修習中の経験を経て、検察官を志望するようになりました。

学部、ロースクールで学ぶことは、もちろん実務での基礎になるけども、司法修習で実務に出て実際に扱う事件や技能に触れたり、見たり、実践したりしてみないと、なかなか自分の進むべき道というのは、わからないなと思います。

検察官としての仕事のやりがいについて教えてください。

検察官の特徴として、捜査の段階から、弁護士もそうなんですけど直接被害者(当事者)と話ができる点があると思います。直接話すから、被害者から喜怒哀楽をそのままぶつけられることがあります。嫌なことももちろん多いけど、一生懸命自分の頭で捜査を組み立てて、うまくいったときとか、被害者から感謝されるとき、とってもやりがいを感じます。

それ以外にも、女性被害者・小さい子供から話を聴くことが多いです。話しにくそうなこともしばしばあって、何度もいやなことを思い出させてかわいそうに思うこともあります。特に小さな子どもだとお母さんが同伴することが多く、話してもらっているときに、気の毒に思うことは多いです。そのようなしんどい状況の中、がんばって来てくれた人に対してどこまで迫って起訴に事件をつなげられるか考えますし、こちらが被害者を保護する姿勢・雰囲気を見せて、安心してもらおうとします。このあたりは、仕事において非常に工夫するところです。

否認事件で、起訴まで持っていけるのは、被害者の話を信用できるという判断になったときですし、こういう風にきちんと話を聞くことができた上で起訴できたとき、被害者の方に感謝してもらえます。それだけじゃなくて、起訴しなくても、検察官が入ることでうまく解決に導ける場合があります。こんな風に、きちんと話を聞くことができた上で自分が検察官として事件に関わることで、紛争そのものがまとまったといえるとき、やってよかったと思います。

弁護士との違いとして大きいのは、当事者との間でお金が発生しないという点です。被害者は、依頼者という立場ではないので。だけど、検察官は被害者の味方として、でも、真実は何かという観点から、仕事をすることができる。ここが弁護士との違いだと感じます。

他にも、事件が起こったとき、「被害者は立場が弱い」と私は感じます。被疑者の側には弁護人という法律的なアドバイザーがいる。たしかに、被害者参加制度はあるけれども、被害者には、そういった法律的なアドバイザーという意味での味方がいないことが多いです。こういった事情を考えると、検察官がその役割を担う必要があると思うんです。

検察官としての仕事の難しさ、注意すべきことはありますか。

検察官は被害者の味方ではあるけれども、「被害者とどっぷりではいけない」、ということがあります。被害があればある程、相手に対する気持ちが強ければ強い程、色々言いすぎてしまうこともあると思うんです。このあたりをふまえて、ちゃんと他の証拠も見た上で、真相を明らかにしていくことが難しいですね。

他にも、被害者との関わり方としては、検察官ができることは、「被害者に対して法的な選択肢を提示すること」までで、このケースでは示談したほうがいいとか相場がどうとかは言えない立場なんです。こういう意味でも、被害者とどっぷりではいけないですね。

あと、逮捕・捜索は人の権利を侵害するものなんですよね。普通の行為じゃないです。そういった行為をする上で、「権力の行使は、良いことではなくて、怖いことである」という意識が必要だと思います。やっていくうちに忘れがちなんですけど。そういう意味での責任感を日々感じていますね。

日常生活では、仲の良い友人は私が検察官であることを知っていますけど、例えば美容室で聞かれたりしたら公務員ってこたえます。危険と隣り合わせですし。自分を守るため、むやみに明かさないですね。官報みればどこにいるかわかりますが、恨みを持たれて、つけられることもあります。自分の職業をむやみに語らないというのも注意すべき点だと思います。

検察官の採用後のキャリアプランはどんなものがあるのでしょうか。

私は今、任官して5年目ですが5年目まではキャリアはみんなほとんど変わらないんですよね。
(法務省のホームページhttp://www.moj.go.jp/keiji1/kanbou_kenji_04_index.html#a)

5年目以降、検察庁以外の部局の仕事をするという選択肢が広がります。というのも、検察官も法務省の職員なんですよ。法務省の中の「検察庁」という組織に属しているという感じです。だから、法務省の職員として、法律を作るといった内側の仕事をする機会もあったり、まったく外部の機関に派遣されて、働く・知見を広めるということもあります。たとえば、弁護士事務所・海外の大学・消費者庁等、さまざまなところで働く機会があります。

私自身もそろそろ外をみたいと感じています。私は、弁護士事務所に行ってみたいですね。これまでやってきたからこそ、見てきたい。相手側に入ることでみえるものもあると思います。

検察官になるには、どういう能力が必要だと思われますか。

大学・大学院・司法試験の成績はあまり関係ないと思います。抜群にいい人であればなれるわけではないです(そりゃ中にはそういう人もいるけれども)。検察は、組織で働くから、裁判官とは異なる資質が要求される職業です。たとえば、立会事務官との関係はすごく大切です。仕事の内容としても、基本的に取調べをしますし、1人で世界にこもっている人は向いてないかなと思います。いろんな人がいるほうがいいと思っています。金太郎飴のような人材は求めていないですね。一緒に採用された同期も全然違う性格でしたし。未習の人もたくさんいました。だから勉強だけやっているより、いろんな経験をしている人がいいですね。向き不向きはあると思いますが、成績という面では司法試験受かっているなら、飛び抜けている必要はないと思います。

というのも、実際に検察官になって難しいのはたくさんある証拠の中から、事実を認定することなんです。司法試験みたいにきれいに整理された事実関係は無くて、雑多な証拠から事実を認定します。何が本当なのか。どこまで認定できるのか。事実が決まってその後に法律の適用があるけれど、この法律の適用が司法試験までの勉強であって、この前段階の事実認定が難しいんです。こういった事実認定の段階で、いろんな見方ができる人が向いていると思いますね。

女性として検察官になられることについてどう思われますか。

産休・育休が取りやすく、働きやすい環境です。お互いに支えあっていて、女性も増えている印象です。全体の約3割が女性です。一度産休・育休で職場を離れても、自分の得た資格が消えることは無く、自分が活かされる場が消えるわけではないんです。努力の結果として得た結果が消えないのがいいところで魅力的だと思います。

その他にも、女性だからといってわいせつ事件や、子供の事件に偏っているわけではなく、広くいろいろな事件を扱えます。男性の検察官と同じかそれ以上の経験をできています。もともと普通の女の子だった人が検察官になったりしていて、ロースクール時代も普通の女の子だった子が検察官になっています。本当に普通の女の子です。「えー!あなたが!」というようなこともよくあります。

それ以外には、結婚のことについてですね。周りの女性検察官を見ているとご結婚される相手としては、同職や法律家が多いです。あとは、全国転勤があるのですが、ここをどうとらえるかですかね。

神戸大学ロースクールについてどう思われますか。

やっぱり教授陣はとってもいいですよね。教育熱心な教授陣の授業を比較的少人数で受講できるのが本当に良かった。すごく勉強になりました。司法試験に直結する勉強というよりは、働き始めて役立つ知識がものすごく多いですね。今でも役に立っていると感じることは多いです。

あと、神戸大学の学生の特徴として良い点があると思います。それは、幅広い学力層・経歴の学生が一緒に勉強しているというところです。めちゃくちゃできる人もいて、そういう人に聞きやすい雰囲気がある。壁が無いというか。また、いろんな経歴の人もいるので、自分とは違う人、もっと勉強のできる人と一緒にゼミを組むことができる。そういった状況をうまく使えるロースクールだと感じますね。

あとロースクール全般かもしれないけど、普通に暮らしていたら会えないような人に会って、話を聞くことができる。エクスターンがそう。予備校だけでは得られないものある。先輩を経由する場合もそうです。実際に働き始める前に色々知れたのが良かったですね。

他にも、司法修習では、「君たちは司法試験には受かっているんだから。」という目で教官に見られます。ちょっと厳しくみられるんですよね。それに対して、ロースクールでは修習の場合と違って、教官(講師)が学生側に近い存在で、もう少し低い目線で話してくれるということがあります。ロースクールでお世話になった裁判官や検察官、弁護士の先生には悩んでいることを話しやすいんですよね。法律家になってからの励みになるんです。そこが予備試験を経由してなられる方との違いだと感じます。いろんなものを見ることができて、実務家を見て、司法試験受かった後、役立つことが多いと思います。それがロースクールの良いところですね。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
インタビュー実施日:2016年6月23日
インタビュアー及び記事編集者:山内 一輝
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