大学院の歩み

企業を支える―法律のプロフェッショナルとして―

秋庭 雅英 さん

第4期修了生
YKK株式会社 法務・知的財産部 法務・コンプライアンスグル―プ・弁護士


ご経歴
2004年に中央大学大学院法学研究科を卒業後、外資系生命保険会社に入社し、3年弱法務部に勤める。その後、本法科大学院に入学し、2009年に修了、司法試験に合格。水戸での修習を経て2010年12月に都内の法律事務所に入所。そして、2013年8月にYKK株式会社に入社し、現在に至る。
※職業・勤務先は、取材当時のものです。


この度、YKK株式会社においてインハウスとしてグローバルにご活躍なさっている本法科大学院修了生(4期生)の秋庭雅英さんにインタビューをお願いしました。近年、グローバル化の進展に伴い、多国間に及ぶ複雑な法律問題を社内で対応できる人材へのニーズが高まっていること等を背景としてインハウスローヤーは急激に増加しています。海外展開を早い段階から進めていたYKK株式会社でご活躍なさっている秋庭さんのお話を進路の選択に役立てていただけたら幸いです。

現在はどのようなお仕事をなされていますか。


YKK黒部事業所50ビルにて

YKKはファスナーなどのファスニング製品の製造販売を事業とするメーカーです。私は、法務・知的財産部 法務・コンプライアンスグループに所属しており、日常業務としての国内の販売会社の契約書の審査や法律相談のほかに、さまざまな特命業務を担当しています。例えば、競争法担当として競争法に関するグローバルポリシーの策定、データ保護法対応としての人事情報管理のスキームの検討、株主総会対応、クレーム対応などです。YKKは世界約70か国・地域に110社ほどで事業を展開しているため、グローバルなポリシーの策定などで悩ましい問題に直面します。グローバルなポリシーの基準を定める場合、日本のルールをそのまま基準とするわけにはいきません。グローバルに事業を展開する以上、現地の実情を踏まえつつも一つの共通の基準を設定する必要があり、日本の法律や現地の法律だけを遵守していればよいわけではないというわけです。そのような仕事をできるのはYKKならではと思っています。

現在のお仕事で気をつけていることは何ですか。

企業内弁護士として、適切な法的リスクの手当をした上で可能な限りビジネスを前に進めるためのアドバイスをするように気をつけています。的確に事案を分析し、『法律的にはリスクがありますよ。』とアドバイスをして終わる仕事の仕方もあると思います。しかし、私は、ただ『法律的にはリスクがあります』というだけではなく、リスクの幅を示した上で、適切な法的リスクの手当=代替案を提案するということを心がけています。そのためには、自社のビジネスに精通する必要があります。自社のビジネスに精通していれば、ビジネスを進めるために必要なアイディア出しや、リスクの幅を的確に示し、取れるリスクであれば事業部門の背中を押してあげるような配慮ができるようになるからです。法的リスクを的確に分析し、仮にビジネスを当初の想定通りに進めることができなくとも、法的リスクを手当てした現実的で効果的な代替案をタイムリーに提案できることこそが、企業内弁護士としての価値ではないかなと思っています。

仕事のやりがいは何ですか。


IDカード用のネックストラップも
ファスナー

最先端のグローバルな法務体制の中で、世界各地の法務担当者とコミュニケーションをとりながら、幅広く法務やコンプライアンス業務に携われるところですかね。YKKのコアバリューの一つに『信じて任せる』というものがあります。私の仕事との関係でいえば、本社や法務の言い分を押し付けるのではなく現地や他部署の意見をできるかぎり尊重し、議論をしたうえで、最終的には信じて任せるということも重要だと思っています。そのためにはコミュニケーションが重要となってきます。時には粘り強く説明したり、お互いの主張をぶつけ合うことがあったりと苦労することもありますが、最終的にお互いに理解しあうことができた場合には、とても充実感があります。

ご自身のロースクールでの授業の感想をお聞かせください。

ロースクールの双方向・対話型授業で『考える力』をつけることができたことで、何が正解かわからない実務に携わるうえで必要な思考力の基礎を身につけることができたと思います。『わかりません』と言い出せない緊張感のある雰囲気の授業の中で学習できたことは大きいと思います。また、社会人経験後にロースクールに入学したため、授業で取り上げる判例を読む場合でも、その背景事情や実務でありがちな問題状況等についてリアリティをもって学べたように思います。多くの方は大学からストレートにロースクールに進学されるでしょうから、意識的に、実務を知ることのできる授業に出ておくことは有益だと思います。確か、神戸大学でも実務家の方をお招きしてリレー形式で講義をしていただく授業(※1)や、企業法務についてゼミ形式で学ぶことのできる授業(※2)がありましたよね。

※1-「ワークショップ企業内法務」…日本を代表する企業において企業法務の一線で活躍する方々を講師として迎え、企業内法務における実務の基本や実情を学ぶことのできる授業です。

※2-「R&Wゼミ企業法務」…日本でも有数の大手法律事務所において活躍する弁護士の方を迎え、企業において実際に起きた又は起こり得る事案を題材とする意見書の作成、それを前提とする議論を通し、事案分析、法的リサーチ、説得力を磨くことのできる授業です。(いずれも、2016年度現在の情報です。)

ご自身の将来像を教えてください。


YKK EUROPE LTDの
Legal部門のメンバーと

YKKに入社したのはグローバルな法務に携わりたかったからですが、今年の7月からロンドンに赴任することになりました。自分にとってチャレンジングなことですが、今後の人生にとってとてもよい経験になるはずです。英語は得意ではないのですが、現地のスタッフともしっかりコミュニケーションをとり、異文化の中で法律を駆使しグローバルな企業を支える、そんな人材になりたいと思っています。日本企業や国内法律事務所の視点だけではなく、海外子会社や外国法律事務所の視点も持って事案を処理できるようなグローバルな法律家になることができればベストですね。

最後に、ロースクールへの進学を考えている後輩たち、インハウスを志す後輩たちへメッセージをお願いします。

ロースクールに進学すべきか、ロースクールで何をすべきなのかということは、将来なりたい自分から逆算すると考えやすいと思います。そのためには、情報をしっかり収集すると同時に、人とは違う自分の強みは何なのかということを意識して、自分の将来を考えると良いのではないでしょうか。ロースクールの段階で、インハウスの仕事に向けて何か特別な勉強をするというよりは、むしろ情報収集の一環としてインハウスの仕事のイメージをつかむくらいでよいと思います。また、司法修習後すぐにインハウスになるよりは、法律事務所に勤務してからインハウスになった方が、弁護士資格がない法務部員との差別化という意味ではよいかもしれません。あとは、インハウスに限ったことではないですが、法律的な論点がどのように具体的にビジネスに関係してくるのかを意識することや、法律関係に限らない様々な立場の人と交流し、様々な経験を積んだり、コミュニケーション能力を高めたりすることは有益だと思います。ロースクールで仲間と苦楽も共にしながらみっちり勉強して過ごす濃密な時間は、皆さんの人生にとってとても貴重で有意義なものとなるはずです。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しています。
インタビュー実施日:2016年4月4日
インタビュアー及び記事編集者:林村 涼
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