大学院の歩み

「弁護士」という職業〜その志とこれから〜

中山 貴博 さん

第6期修了生
弁護士法人 大江橋法律事務所・弁護士


ご経歴
神戸出身
2005年 神戸大学法学部 入学
2009年 同 卒業、同大学大学院実務法律専攻(法科大学院) 入学
2011年 同 修了
     司法試験合格、司法修習(65期)を経て、
2013年 弁護士法人大江橋法律事務所入所
     現在に至る

先生のお仕事の内容をお教えいただけますか。

1年目から2年目にかけては独禁法を中心に扱っていました。その後はいろいろな分野に関与したいという希望もあり、独禁法案件に加えて、訴訟等の紛争案件やM&Aを含む会社関係の案件を主として扱っています。また、これらに加えて、労働事件や倒産事件に関与することもあります。

独禁法案件では、カルテルが問題となる刑事事件や、優越的地位の濫用についての審判事件に関与しています。紛争案件としては、訴訟、仲裁、審判事件といったものを扱っています。M&A案件では、DD(Due diligence)を中心に、契約書のレビューや適時開示のサポートを行っています。DDは、当事者の意思決定に影響を及ぼしうる問題点を調査・検討するもので、会計士や税理士と協働して行うことが多いです。

私の志望として、いろいろな分野に触れてみたかったので、その旨を事務所にお願いし、今では本当にいろいろな案件を経験させてもらっています。事務所としても、若い年次から特定の分野のみを扱うべきという発想があまりないこともあり、私としては、まずは幅広く経験し、ある程度の経験を積んだ上で、専門分野を見いだそうと考えているところです。弁護士になって4年目に入ったので、丁度専門分野についても考えを巡らせているところです。

ワーク・ライフ・バランスという点ではどう感じていらっしゃいますか。

弁護士になった当時は、慣れていなかったということもあり、結構忙しくて、深夜までやるということもありました。最近では、ある程度コントロールできるようになってきたかな、というところです。急ぎの案件やDDが入ると、その時はぐっと忙しくなったりしますが、ふっと時間ができたりもして波がありますね。

このお仕事のどのようなところに魅力やまたご苦労を感じていらっしゃいますか。


インタビュー場所(事務所会議室)にて

勝つか負けるかが本当にわからない難しい事案で勝ったときや、事件の規模にかかわらず、本当に困ってる方から依頼を受けて、その方に満足してもらったときですね。

また、事案が上手くいったときに喜んでもらえるのももちろん嬉しいですが、上手くいかなかったにもかかわらず、若しくは、上手くいくかどうかわからない時点で、我々の仕事に満足している、と伝えてもらったときは本当に感無量でした。

他方、苦労という表現が適切かはさて置き、責任感というものは凄く感じていますね。自分の判断や書面が他者の権利義務関係を決めることになるという感覚を忘れないようにしています。このような責任感が常に伴う仕事なので、産みの苦しみというか、自信を持って成果物を出すのには時間がかかってしまうことがよくあります。

その中で折り合いをつけるというのは、どのようにされていますか。

弁護士になった当初は、とにかく全力で当たっていました。その中で、どこまでやるべきか、どこまでやった方が良いか、といった感覚が身についてきたように思います。力を入れなければならないところとそうでないところの見極めが重要だと分かるようになってきます。その見極めっていうのが難しいんですけど、センスという側面もあり、経験で磨いていくという側面もあると思います。幸いにも、弊所には色々なタイプの弁護士がいるので、自分にないセンスを持ってる人と一緒に仕事をすることで、自分の感覚を磨いていく、ということが大事だと思って仕事に取り組んでいます。

先生が弁護士という道を進まれることになったきっかけを教えていただけますか。

中学生の時に親が離婚することになって、周囲から、「まわりに弁護士がいれば、こんな結果にならかった」という話をされて、それからずっと弁護士という職業が頭にありました。その後、「世の中には3つのプロフェッショナルがある。医者と牧師と弁護士である。医者は、人の体の病を治す。牧師は、人の心の病を治す。弁護士は、人と人との間の病を治す。これは、人間である以上必然的に生じる病を治す職業で、尊いものだ。」と聞いた時に、自分は人と関わりたいな、と思って、やはり弁護士を目指そうと思いました。

今の事務所に就職されたきっかけを教えていただけますか。

司法試験受験後のサマークラークです。当時、他の事務所のサマークラークにも行かせていただき、どこも本当に魅力的で悩んだのですが、弊所の採用担当弁護士の仕事振りや人柄に魅力を覚えたことや、弊所代表弁護士の理念に触れることができたことがとても大きかったと思います。

神戸大学のロースクールに入ってよかったと思うことはありますか。

人に恵まれているということですね。特筆すべきは教授陣が素晴らしいということだと思います。それぞれの研究があるなかで教育にも力を入れていただいており、非常に有益な環境でした。また、司法試験委員を経験された先生も多く、このことは、司法試験合格という最低限の課題をクリアするためのいい指針になりました。神戸大学の先生方の試験の成績が悪ければ司法試験合格が遠ざかる訳ですから、試験で結果を出せばいい、という点で非常に分かりやすいと考えていました。また、神戸大学の先生方は、こちらが理解しようと努力さえすれば、協議の時間も割いてくれ、支えになってくれました。

また、山の上という環境もあってか、沢山の友人に恵まれたことも幸せでした。今でもそれぞれの環境で頑張っている姿を見ることができるのは何よりも励みになります。

ロースクールで学んだことが役に立っていると思うことはありますか。

沢山あります。ロースクールでは、学部で学んだことを実際にどのようにして使うのか、という点を理解するのによい場でした。また、ロースクール生だからこそ、基本書といわれる本を通読する機会と時間があるのは絶対に活かすべきです。実務に出たら通読する余裕はなかなかないですし、体系的な理解を正確に身に付けておいて絶対に損はありません。

また、先生と対面で質問や議論をしてきたことも今では大きな財産です。特に、先生に聞く前に自分で最大限調べるということを徹底していたことが今の糧になっています。弁護士になった瞬間から我々はプロですから、責任を持った仕事をするためにも自分で調べるということは重要なことだと思っています。このような姿勢で臨めば、先生方も快く質問に応じてくださるので、オフィスアワーを活用できたという点も、ロースクールに入学して役に立ったという点です。

ロースクール、司法試験を目指している後輩たちに向けてメッセージをお願いします。


事務所玄関にて

3つ言わせてください。1つは、学生の間に想像力をできるだけ身につけてほしいと思っています。学生という立場にいると、どうしても無責任でいられる。その立場を活かして、制約のないうちにいろんな経験をして、自分の行動が第三者に与える影響を意識していみたり、第三者からどう見られるのかとか、第三者がどういう思いで行動しているかとか、見えない部分を想像するにはいい環境だと思います。先ほど述べた教授とのやりとりも、プロの方と接することが出来るのだから、いろんなやりとりをして、どういう風に見られているのか、というのを自分の行動の指針にすることもよい経験です。

もう1つは、無責任とは相反するけど、「自己責任」というのをしっかり意識してほしいと思います。昨今、ネガティブな印象を与えられがちな言葉ですが、自己責任の前提は自由な選択というところを意識してもらいたいと思っています。誰に強いられることもなくこの道を歩んでいるのですから、自分の将来像を叶えるための努力を惜しまずに自分を磨いていってほしいです。

最後は、この業界の未来は暗いだなんだといろいろ言われますが、十分に魅力的な業界だということを知ってほしいです。従前からの変化が生じていることは、新たな業務分野開拓のチャンスですし、実際に新しいスタイルがどんどん産まれています。このような中で順応できる人であれば、何でもやっていくことは可能だと思います。いろいろな生き方があって、それぞれが輝くんだという思いを持ってこの業界に飛び込んでほしいです。ずっと思っているんですが、法科大学院で学ぶような方は一般論として非常に優秀なんです。いつまで勉強すんねん(笑)って歳まで勉強してるわけで。驕りたかぶったらだめだけど、自信を持って、早く社会に出て能力を発揮してほしい。司法試験にてこずってる場合じゃなくて、一発で受る、就職もさっさと決める、という気概で、とにかくその能力を世に出して、活躍してほしい。ですので皆さん精一杯頑張って、早くこの業界に飛び込んできてください。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
インタビュー実施日:2016年6月4日
場所:弁護士法人 大江橋法律事務所 大阪事務所
インタビュアー及び記事編集者:白石 覚
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