商社のインハウスローヤー

田中 良和 さん

第3期修了生
豊田通商株式会社法務部・弁護士

ご経歴
大阪市立大学経済学部卒業
神戸大学法科大学院卒業
司法研修所修了(第62期)
大阪市役所
弁護士法人キャスト
豊田通商株式会社(現職)

【公職等】
神戸大学法科大学院非常勤講師

本学法科大学院修了後、今の会社へ就職されるまでを簡単に教えて下さい。

私の経歴ですが、大阪市立大学経済学部を卒業後に大阪市役所に勤めましたが、それを退職して神戸大学法科大学院未修者コースに入学しました。神戸大学法科大学院を卒業後司法試験に合格し、修習を経て、弁護士法人キャストという事務所に勤務後、2014年2月に今の豊田通商に入社しました。

前に勤めていた事務所は中国の案件を多く扱っていましたので、豊田通商に転職するにあたっては中国関係の仕事ができることも評価してもらったと思います。

現在の業務の概要を教えて下さい。

豊田通商というのはトヨタ自動車が株式の21.7%を有するトヨタグループの商社です。トヨタグループの商社ですので自動車関連の商品を扱うことも多いですが、総合商社として自動車関連以外の取引も多くあります。

例えばいま長崎や沖縄で「近大マグロ」の養殖事業をしています。豊田通商が養殖したマグロは「近大マグロ」というブランドで流通させることになりますから、近大との間で商標についての契約が当然必要になり、そのような契約に携わることも私の業務です。

私がいる法務部には日本の弁護士資格を有している人だけでなく、ニューヨーク、イギリス、中国の弁護士資格を有している人など様々な人が所属しています。法務部の仕事は大きく2つあって、1つが日々の契約書のチェックなど、もう1つが投資案件のサポートです。特に投資案件のサポートについては、難易度の高い案件についてはサポートチームが組まれることがあり、私は複数のサポートチームに所属しています。

従来の法務のイメージとしては契約書のチェックなどがパッと浮かぶと思うのですが、全社的なプロジェクトのサポートも重要な仕事であり、時間も多くかけています。

どんなところに仕事の面白さを感じますか?

契約書のチェックといっても字面のチェックするだけでなく、まず営業担当者からヒアリングしてこの契約において達成したい目的は何かを把握し、それを実現するためにはどのような内容の契約書にする必要があるのかを考えます。これらの点について法的な観点からのアドバイスや試行錯誤ができるというのは、面白いですね。そのようなアドバイスをするためには、会社の仕事内容を深く理解していないといけませんので、その辺の勘どころというのはインハウスとしての経験を通してずいぶん養われると思います。

法務部の中でそれぞれの法務部員が得たノウハウは、適宜他の部員に共有されます。たとえば契約書の条項で、これは入れておいたほうがよかったな、入れないのは失敗だったな、これは繰り返していけないな、ということを法務の勉強会などで共有するわけですが、自分が経験したことのない案件でも情報を共有することで疑似体験ができ、大変勉強になります。

またこれは商社という性格も関係していると思いますが、社内の様々な案件に、法務の観点からはもちろん、プロジェクトリーダーとしてあるいはチームの一員として、法務を超えた役割を果たせるというのは本当に面白いし、他の専門家たちとチームを組んでやっていけるというのは、弁護士事務所では味わえないと思います。インハウスローヤーとして、法律面のアドバイスができることはもちろん、財務やビジネス面でもアドバイスもできる人材が求められています。

あとは、法律事務所に相談するとなるとその都度費用が発生することになるけど、インハウスなら相談しても会社としては新たな費用は発生しないわけですよね。ですからほんとに色んな相談を、割と気軽にしてもらえるという点もありますね。それはそれで大変な部分も多いですが、面白いと思います。

逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?

これも商社の性格上の問題かもしれませんが、英語が必須なので、そして私はそんなに英語がバリバリできるわけではないので、日々勉強です。

あとは時間的な制約、契約の期限や、プロジェクトの進行に応じて様々なものに期限がありますから、仕事が深夜に及ぶこともあります。

普段はワークライフバランスを保っていますが、たまに仕事に全力を傾ける期間もあります。仕事が大変だと思うときもありますが、そんなときは自分が成長していることを実感できるときでもあります。仕事をする上では苦労もありますが、適度なストレスが充実感につながっています。

弁護士事務所とインハウス、双方の比較を踏まえてなにかアドバイスがあればお願いします。

弁護士事務所の仕事もインハウスの仕事も、どちらもとてもやりがいのある仕事です。

その上での比較ということですが、弁護士としての仕事は独立性、そしてインハウスの仕事は企業の一員として働く、という点が最も大きな違いだと思います。

これは好みの問題も大きいと思うので一概には言えませんが、弁護士であれば弱者救済、特に国選弁護や当番弁護士として刑事事件に携わることができる、そして友人や知人の相談にも弁護士として対応できる、そのような点が魅力だと思います。私はもともと刑事事件に興味があったので、それらの仕事も楽しんですることができました。

それに対して、インハウスは原則として外部の仕事を受けることはできませんので、刑事事件と縁がなくなり、また友人からの依頼を受任できないという点は少し寂しく思う部分です。

他方で、弁護士はその独立性と裏表の関係として、安定して仕事を得ることが困難な側面があると思います。たくさんの仕事を受任する時期は忙しくなりますが、受任件数が少ない時期は暇になります。そして、仕事の多寡がそのまま収入に反映されます。

インハウスであれば急に収入が多くなることはありませんが、仕事がなくて収入が少なくなるということもありません。それに、福利厚生はしっかりしていますし、会社の費用負担のもとで様々な勉強をさせてもらうことができるし、生活の安定というのはインハウスの魅力の一つだと思います。

あとは先ほどもお話しさせていただきましたが、様々な部署と連携して、様々な分野の業務に携わることができるという点が非常に魅力的だと思います。

本学法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか? また、法科大学院教育には何を望みますか?

民法、会社法、独禁法、民訴法、アメリカ法。この辺はあくまでも基本ですけど、これはしっかりやっておいて損はなかったと思います。

たとえば契約書の作成といっても、その内容は一から全て相手方と交渉して決めるというのではなくて、法律の定めをベースとした話し合いになるわけです。そうすると、細かいことですけど当社が売主の場合契約書に「振り込み費用を売主の負担とする」という条項が入っているとき、民法で振込費用は買主の負担と定められていますということを根拠として、振込費用を買主負担にするよう提案をすれば、話が通りやすくなるわけです。どうしても合意ができなければ契約書の振込費用に関する条文を削除すれば民法に従って振込費用は買主負担になります。交渉は相手があるので常に自分の思いどおりになるわけではありませんが、法律をしっかり学んでいれば交渉の落としどころを探すのも容易になります。 つまり、ベースとなるのは法律で、そこから交渉を展開していくのが原則的なやり方ですから、判例、法律に通じているというのは大きなアドバンテージになります。

最後に、インハウスを志す後輩たちへのメッセージをお願いします。

他の事業部との関係でも、顧客との関係でも、人と接することが多いと思うので、人と話すのが好きな人は、インハウスの仕事に向いていると思います。インハウスというのは弁護士の独立云々というよりは会社員、法務部員という側面が強く出ますので、これは好みだと思いますが、そういうのが好きな人はインハウスを考えてみるのもいいと思います。

独立弁護士であれインハウスであれ、ストレスが大きな職業ですから、打たれ強さ、明るさ、これを身につけてほしいと思います。

とにかくまずは司法試験突破を目指して授業をしっかり受けて、勉強をして、特に常に司法試験との関係を意識してやるようにするとよいと思いますね。インハウスを目指すのは司法試験を突破してからで十分間に合いますし、インハウスとしても日々学ばなければならない知識は膨大です。ですから基礎をしっかりと固めておいてほしいと思います。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。

インタビュー実施日・場所:2016年6月18日・豊田通商株式会社本社(東京・品川)
インタビュアー及び記事編集者:安原 雅了

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