初心を貫徹

皆川 佳代 さん

第4期修了生
株式会社ファーストリテイリング (ユニクロ) 法務・コンプライアンス部/弁護士

ご経歴
2009年 3月 神戸大学法科大学院 修了
2010年11月 司法修習開始
2011年12月 弁護士登録(新64期)
2012年 1月 興和株式会社 知的財産統括室 契約渉外部 入社
2015年 7月 株式会社 ファーストリテイリング(ユニクロ)法務・コンプライアンス部 入社
(~現在)

インハウス・ローヤーとして活躍中の皆川さんにお話を伺いました。インハウス・ローヤーというと、法律事務所勤めとどこが違うのか、なかなかイメージをしにくいところもあったのですが、思っていた以上に活躍の幅は広そうです。皆川さんご自身の快活な話しぶりや、ユニクロを展開するファーストリテイリングという会社の気質によるのかもしれませんが、インハウス・ローヤーとしての仕事の面白さの一端をのぞかせていただいた気がします。


弁護士、とくにインハウス・ローヤーを目指された理由を教えてください。

高校時代に遡る必要があります。世界経済大国であるアメリカを経験せずして何も始まらないと思い、日本の高校を1年間休学してアメリカの高校に留学しました。ところが、いざアメリカで暮らしてみると、日本の製品がたくさん使われていたんです。トヨタ、ホンダ、ソニー、任天堂等、アメリカ人のあらゆる生活に日本製品が浸透し、人々の生活を豊かにしていました。日本製品は高性能でありながら燃費が良いと口々に言われ、日本の首相が誰かは知らずとも、高い品質を誇る日本の製品によって、人々は日本をよく知っていました。その時私は、「低コストでありながら、高性能・高品質な日本商品を造る企業は、日本の外交官だ!」と思いました。この感激から、私は日本のメーカーで働きたいと思うようになりました。

その後帰国して日本の高校を卒業、慶應義塾大学(法学部政治学科)に入学したのですが、入学してしばらくはバンドサークルで、明けても暮れても歌を歌っていました。親に言わせれば、「音楽大学に入れたようだね」と(笑)。ところが、大学3年時に、全学部の学生が履修することのできる「知的財産センター」の授業(メーカーの方々、知財高裁裁判官及び慶応大学の教授がオムニバス形式で講義をする授業)の講義により、人生が大きく変わることとなりました。ある日本企業とアメリカの企業の訴訟案件を学んだのです。日本企業が、アメリカ企業から提供されたある技術を結果的に用いず、自社技術のみで製品を製造したにもかかわらず、アメリカの企業から、提供された技術を目的外利用して製造したと言われ、アメリカで訴えられてしまい、陪審員制もあり、6000億円の大損害を負って倒産したという事案でした。

私は、どんなに日本の技術力が高くても、訴訟敗訴のために全てを失ってしまうことがあることを学び、同時に「自社製品を作るために、大勢の技術者が必死に時間やコストをかけただろうに、その成果が訴訟で潰されるようなことがあってはならない。」という激しい憤りを感じました。この講義の締めくくりとして、メーカーの講師の方がこう話してくれました。「英語力があり、海外の文化や人々の気質を理解している人が弁護士になり、かつ企業内にいて、あらかじめ紛争を予防することができれば、国際的な局面でも、会社の技術や従業員の努力を守り、損害を防止できるだろう」と。

その時、私の視界がぱっと開け、全てが繋がったのです。「これだ! 私はこれになりたい!日本の技術躍進に貢献できるような企業内弁護士になりたい!!」

このような経緯で、日本メーカーに、訴訟大国アメリカやその他の国々からの訴訟圧力や、外部からの法的圧力に邪魔をされずに、品質の高い製品を作り続けてほしいという思いから、私は、予防法務・渉外法務としての企業内弁護士への道を志し、大学3年時から法律学科のゼミヘ転進し、司法試験勉強を始めました。

神戸ロースクールの教授たちやゼミ仲間に、何度も何度も稚拙な論文を添削していただくうち、夢のように見えた司法試験に合格することができました。

いよいよインハウス・ローヤーになられるわけですね。

修習期間中、修習生向けの企業による合同説明会(三会合同説明会)にてリクルートのブースに参加していた、(最初の就職先となる)興和株式会社(製薬会社・総合商社)の法務役員に出会いました。彼は、「企業法務に必要な人は、法的バックグラウンドがしっかりしており、かつ語学を駆使して主たるビジネスをサポートできる人材だ。特に、海外との交渉ではインハウス・ローヤーが出てくる。その時に、こちらもインハウス・ローヤーで対峙すれば、出だしから見くびられず対等なスタートを切れる。また、法的バックグラウンドがしっかりしているということで、議論の上台も、議論もスムーズに進む。よって、その企業の交渉が有利に進む。グローバル化の中躍進するため、海外交渉をする際には特に弁護士が必要になる」ということを話し、私を採用してくれました。

さらに、その法務役員が、私がインハウス・ローヤーとしてどのような人材に育つべきか、このように話してくれました。「会社外の弁護士だと、交渉の現場で決定打を打てないこともある。なぜなら、外部からでは、経営者の日々進化する方針や会社の方向性を把握しにくいため、依頼者がどう考えるか分からず、また、決定を下す裁量や権限もないからで、これは仕方のないことだ。他方、インハウスは、常に経営者に近いところで刻々と進化する会社の状況を把握することができる。そこで、会社内にいる弁護士に、法のテリトリーとビジネステリトリーの両方を汲んで、会社としての交渉をしてほしい。皆川さんには、法的知識を背景に持ちつつ、主としてBusiness Decisionをする人になってほしい。

決して、逆になってはいけない。」私はそれ以来、常に、以下を自己目標にして業務に取り組みました。

① 日本の高い技術で世界中の人々の生活を豊かにすること、これに社内弁護士として貢献すること。
②Business Decisionのできる法務人材になること。

ところで、私は幼少時から肌が弱く、直接肌に着用できる下着は、綿100%やシルク100%素材のものしかありませんでした。しかし、それらは汗をよく吸い取らないため、夏場は汗で肌がかぶれてしまい、強い薬を塗らなければならないこともよくありました。ところが、汗を快適に吸い取ってくれるユニクロのエアリズムに出会ってから、その長年の悩みが解消し、薬いらずになり、私の生活が明るく豊かになりました。それ以来私は、顧客としてユニクロの大ファンになり、低価格でありながら良質・高性能のユニクロ製品を日本人として誇りに思うようになりました。そして、技術を用いて衣服に高い機能性をもたせるユニクロ製品を世界中の人々に着てもらい、それにより生活を豊かにしてほしいと思うようになりました。

また、慶應丸の内シテイキャンパスで経営学の講座を受けた際、いろいろな講師がファーストリテイリングの柳井正社長の経営力を分析し、称賛していました。自らも柳井社長の本を読むようになり、日本でトップクラスの経営者である柳井社長の下で働き、インスパイアーされつつ、Business Decision力をつけたいと思うようになりました。このような経緯で、ファーストリテイリングヘ移籍しました。

現在、どのようなお仕事をされていますか。

うちの法務はグローバル組織で、世界11か国・60人以上のメンバーで構成されており、そのうち約40人が弁護士資格保有者です。法務トップが執行役員で、世界中飛び回ってリクルートしているんです。日本法務は約20人で、社内弁護士が約10人です。その中でも法務チーム、知的財産チーム、コンプライアンスチームがあって、私は法務チームに所属しています。

私個人の業務内容としては、
・ファーストリテイリングとユニクロの取締役会事務局業務、
・子会社であるユニクロやジーユーなどのキャンペーンや宣伝活動が景品表示法、医薬品医療機器等法その他の法規に抵触せず、かつ躍動感あるマーケティングにつながるようにアドバイスをすること、
・グローバルアンバサダー契約交渉、
・海外駐在事務所の設立、
・社員のストック・オプションなどの調整、
・他部署へのコンプライアンス面の教育、
・他企業とのコラボ商品製作などについての契約交渉、
・店舗からの相談アドバイス
・店舗と本部の協働プロジェクトなど、
幅広くお仕事させていただいております。

法務部イコール「契約書とにらめっこ」というイメージがありそうですが、契約書と向き合って仕事している時間は全体の20%くらいですね。それくらい様々なお仕事に触れ合えて、そして一つ一つのお仕事の規模が大きく、色々なことに携われるのでとても楽しいですね。

今のお仕事の素晴らしいところ、お仕事を通して得たものなどを教えてください。

他の大きな会社だと、外部に全部委託しちゃって、法務部は契約書ばかり見ているところもあるみたいですが、うちの会社は、できるだけ外に委託しないで、内部でやれることは内部でやろう、というスタンスです。

権限や職域もいきおい広くなります。たとえば、うちの会社の場合、自社工場がありませんので、全部委託生産でやっていますが、そうなると委託先の各国工場の品質を管理できるように、現地に駐在事務所を建てる必要が出てきます。法務はもちろん、税務、財務、人事、総務といったところが一緒になって、どういう駐在事務所にするか決めていくわけです。当然、いろんなところで社長のサインが必要になるのですが、実は、そういうサインを管理しているのが、法務なんです。だから、全部の問題を一旦吸い上げて、それを各部署に割りふる、必要なときには各種の会議にかけて決済をもらう、といった一々の流れに自然と関わっていくことになっていきます。契約書を見ているだけだなんてとんでなくって、法務もいろんな判断をして、まずは各所を巻き込んでいかないと仕事になりません。

ですので、まずは社内の他部署を巻き込む力、契約交渉なら英語も使いながら他企業などとセッションする力や、チーム内外で連携をとって色々とまとめる力がこういう仕事を通して身についてきたかなって感じのものは少なくないです。

すごく幅広いですね

柳井社長が「強い法務部がいなければ、世界で闘うことはできない。法務は経営に一番近い専門部署です」と、法務部を信頼し大切にしてくれています。会社がどんどん世界展開してゆくなかでインハウスを増やす流れで考えてくれています。

それに、お仕事は大変ですが、業務時間はきっちりと決められていて福利厚生もしっかりしていますし、例えば旦那さんに付いて海外等に行っても、5年以内なら同じポジションに戻ってこれるなど、女性も含めて働きやすい環境を与えられています。また、世界規模の社内イベントも半年に一度開催され、世界の法務チームメンバーとも勉強会をしたり親睦を深め、全世界のメンバーが柳井社長の指揮のもと一丸となって目標に向かい邁進し、私も刺激的で充実した日々を過ごしています。

ところで、なぜ神戸大学ロースクールに進学されたのですか。

神戸大学は、先生方が優秀で、一人一人に対する教育指導が手厚いと入学以前から耳にしていました。そこが一番の決め手です。また、神戸大学の入試の仕方も素晴らしかったです。

今、世界は、私の会社の公用語が英語であるようにグローバルで動いていいます。英語ができる人材が重宝される今日、早くから、神戸大学は入試の評価の仕方が違いました。私は、政治学科も出ていて、政治も経済も英語も勉強していて、入試でも法律以外の評価が高く評価されました。もし、そのような経歴を評価してくれない学校なら、入学すらできなかったかもしれない。神戸大学はどのような人材を生み出したいかという観点も含めて入試の段階から評価しています。今は、弁護士にとっても誰であっても、躍進するには英語力が必要な時代になっていますからね。神大は、どの大学よりもこれを見抜いていたのではないかと感じます。

振り返ってみて、神戸大学ロースクールはいかがでしたか。

本当に先生方が優秀であり、一人一人に対する教育指導が手厚かったです。私は1回試験で失敗をしてしまって、ある先生に相談をしたところ、その原因分析を手伝ってくれました。正解したものでも、偶然か、本当にできたのか、不正解だったものに関しては、既にインプットしていたのに出来なかったのか、真新しい問題だったから出来なかったのかを研究して、分析しました。再現答案も、多くの先生方に見ていただきました。このように、先生方に相談しに行けば、一人一人に対して同様に分析してくれると思うと、すごく手厚いですよね。

また、神戸大学の既習者コースは他の優秀な大学院と比べると少人数です。それが一人一人に対する手厚さにも繋がると思いますが、後輩との距離も近かったです。私は、すごく仲良くしてくれた後輩が、その学年で首席だったのですが、私が受験に失敗した際、その子が「佳代さん強化チームを組みましょう!」と、彼女の他に、私の苦手分野にそれぞれ強いメンバー3人を集めて一年間みっちり一緒にゼミ組んでくれました。結果的に、その3人中2人が裁判官になりました。少人数だったから、今でも仲の続いている優秀な後輩と距離が近く、面倒もみてくれたのだと思います。

神戸大学ロースクールの魅力について教えてください。

1番は先生方の手厚さや優秀さですね。期末試験や中間試験を過去10年分解けば司法試験に十分に合格できる力が付くと思います。司法試験に失敗した後も、自習室を使わせてくれて、先生方が相談に乗ってくれるところも大きな魅力です。

また、司法試験の合格と、神戸大学での成績の良さも比例していて、先生方の評価が適格と思います。たまに番狂わせがあるとしても、大体、成績上位の人たちが合格しています。他のロースクールでは学校では高評価を受けていても司法試験には全く通用しなかったということもあります。神戸大学のロースクールの評価は信用できます。

また、実務に出てから気づいたこととしては、神戸大学の法律教育がかなり実用的であることですね。特に、神戸大学の行政法を教われば、実務で十分に対応できますよ。

最後に、皆川さんの目指すインハウス・ローヤーの姿とはどのようなものでしょうか。

うちの会社では、職種や部署を越えて全員が経営者であり、みんなでビジネスを考えるという姿勢で社員全員が働いています。また、社外の世界的な経営者や著名な大学教授の方をお招きして経営について講演していただいたりと、ここには日々の業務やそれ以外においても、私の目指す姿へ近づける要素がたくさんあります。このような本当に素晴らしい環境のもとで、「ビジネスジャッジメントが出来る法律のプロフェッショナル」という私の目標に向かって、これからも日々、自己研鑽していきたいです。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。

インタビュー実施日:2016年3月2日
インタビュアー/記事編集者:大西達也/中村美菜・廣利陽次

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