法とクリエイティブの融合

水野 祐 さん

第2期修了生
シティライツ法律事務所代表・弁護士
Arts and Law代表理事、Creative Commons Japan理事事務所・弁護士

ご経歴
慶応義塾大学法学部卒、2007年神戸大学法科大学院修了。2009年司法修習修了(新62期)、武藤綜合法律事務所を経て、2013年シティライツ法律事務所を開設。

はじめに、弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください。

たまたま法学部に入学したものの、弁護士になろうと思っていたわけではありませんでした。しかし、学生時代に、「クリエイティブ・コモンズ」※という著作権に関する新しい考え方を提唱したアメリカの憲法学者ローレンス・レッシグ氏の著書(ローレンス・レッシグ『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』(2001、翔泳社))を読み、法とインターネットとクリエイティブの交差点がおもしろくなるという確信を持ちました。

私自身、音楽や映画などのカルチャーやアートに触れることが好きだったので、クリエイター支援、つまり何か世の中にはまだない、新しいモノやコトを作って、世の中をあっと驚かせるような人たちをサポートしたいという気持ちがありました。また、ちょうど私はインターネットが普及し始めた世代でもあるので、インターネットを駆使できる世代の弁護士としてであれば、法律家としても何か新しいことができるのではないか、と考えました。

このような経緯で、徐々に、今私がやっているような、新しいタイプの弁護士を志向するようになりました。

※「クリエイティブ・コモンズ」は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)を提供している国際的非営利組織とそのプロジェクトの総称です。
CCライセンスは、インターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません。」という意思表示をするためのツールです。CCライセンスを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができます。(クリエイティブ・コモンズ・ジャパンHPより https://creativecommons.jp/licenses/)


現在のお仕事の内容について教えてください。

シティライツ法律事務所 デスクにて

分かりやすく言えば、エンターテイメント・ロイヤーという、映画や音楽、アニメ、出版、デザイン、ファッション、アートといったコンテンツ産業に精通した弁護士として仕事をしています。しかし、それと同じくらい、Webやスマートフォンアプリといったサービスを手がけているIT分野や建築・不動産分野の仕事もやっています。

もっとも、ここは勘違いされやすいのですが、そういったクリエイティブ系企業の仕事をしているからといって、常に著作権等の知的財産権だけが問題になるのではなく、企業の顧問をやっていれば労務もあれば、会社法・民法マターもあれば、債権回収にも対応できないとやっていけません。私の仕事の約6割は契約書の作成や、その内容に法的問題がないかのチェックです。残りの3割が訴訟その他紛争対応、さらに残りの1割が新しいビジネスのスキームのコンサルティングなどちょっと変わった仕事という感じです。ですから、特殊な弁護士のように見られますが、仕事内容としては意外に普通の企業法務ロイヤーという認識でいます。

現在のお仕事にどのような魅力を感じておられますか。

事務所の本棚には、法律書以外の本が多く並ぶ

もちろん、一般的な弁護士にも共通するような、人に頼られること等も魅力に思いますが、まだ世の中に浸透していない新しいビジネスやカルチャーを世に出すサポートを通して、新しい価値や、物の見方を世に提示できたときが、一番嬉しく思いますね。

今は、社会の動きがあまりにも早すぎて、次に何が起こるかが誰にも分からない時代です。そのため、何か新しいことをやろうとすると必ずリスクが伴い、結果的に「じゃあやめておこう」と過度に萎縮してしまう。これはクリエイターだけでなく、ビジネスをやっている事業者にもあてはまることです。その上、多くの弁護士は企業のプロジェクトの最後の方に入ってきて、法律家として外部から判断するので、「そのプロジェクトには法的リスクがある」という回答をするのみ。ですが、法的リスクがあることは、少し調べればわかることですし、新しいことにトライしたい企業が聞きたいのは実はその先の話なんです。つまり、どれだけのリスクが伴うのか、リスクをカバーできる方法があるのかといったリスクのグラデーションの話です。負けられない大切な試合の直前に風邪を引いてしまったとして、医者に行ったら「風邪ですね。安静にしてください。」としか言わない医者は役に立たないですよね。風邪を前提に、可能なかぎり症状を緩和する方法とか、試合が終わった後にできることとか、そういうことを聞きたいのに(笑)。

「リスクのその先」をアドバイスするためのコツはありますか。

私の場合は、そういう企業のプロジェクトに企画段階から関わらせてもらうようにしています。そうすることで、私自身も、クライアントが何をやりたいのか、どういう思いでやっているのか、そのプロジェクトの価値を世に問うことについて共鳴することができるんです。また、様々な案件を見てきましたので、単純にリスクがあるという判断ではなく、確かに法的にはこうだけど弁護士としての経験上こう考えるという一歩踏み込んだ回答をするように心がけています。その上で、リスクのグラデーションがある中で、いわゆるグレーゾーンと言われる部分をどこまで攻めることが出来るのか、企業と共に議論をする。今の時代のように予測が難しい時代において、私が出したちっぽけな回答に「解答」があるわけがありません。そうではなく、クライアントとの議論の中で出てきた、磨き上げられて行く実践にこそ答えがあると思っています。

このような過程を経て仕事をしていますので、プロジェクトを事業者やクリエイターとともに企画することもドキドキワクワクしますし、実際に、それが世の中に浸透し評価されることは、私自身にとっても大きな喜びになるわけです。

反対に、現在のお仕事で苦労されていることはありますか。

私の仕事は、条文や、法律の基本書に書いてあること以外が問題になることが多く、いわばどこにも答えがないので、不安な部分はあります。つまり、どこにも書いていないことを「これは禁止されていない」とか、OKと判断を下すことは、なかなか勇気がいることなんです。そこの判断で重要なことは、法律論の「外」から考えるということです。つまり、当該ビジネスやカルチャーが置かれている国内的、国際的な状況を前提にしたうえ、「これはこっちの方向で考えられるべきだ」というある種の利益考量が必要になってくると思います。

とはいえ、ここは勘違いされやすいのですが、新しい分野といっても、まったくのフリーハンドというわけではありません。既存の法令、過去の裁判例などから似たような利益状況のものをどれだけ有利に援用できるか、ということ意識しています。そういった発見をどのくらいできるか、ここが新しい分野での腕の見せ所ではないかと思います。

ご自身の「強み」を教えてください。

先に述べたように、私はもともとカルチャーやアートに触れることも好きでしたし、最新のアプリやビジネスの動向も押さえているということもあって、クライアントのやりたいことを理解し、信頼関係を築きやすいことですね。「話が早くて楽だ」と言ってくれるクライアントが多いです。私は決して優秀な弁護士ではないと思いますが、それでもそれなりにやれているのはクライアントの事業理解が深いからなのかなと分析しています。つまり、いかに法的なスキルが高くても、クライアントの事業を深く理解していなければ、それは質の高いリーガルサービスにはならないんです。その意味で、どんなに高名な弁護士が、契約の交渉相手であれ、訴訟の相手であれ、出てきても、その部分では少なくとも負けてはいないのではないか、というくらいの自負はようやく持てるようになりました(笑)。

また、弁護士という職業は、キャリアや年数がものをいうとも言われ、実際にそうだと思うのですが、ことインターネットビジネスに関しては、私たち若手のほうがチャンスがある分野だと思います。さきほどのクライアントの事業理解の話にも通じますが、私たちの世代はインターネット以前の感覚と以降の感覚が両方わかるという特殊な世代でもあります。今後インターネットはますますビジネス的な重要性も増えていくものですから、ネットなどの新しいテクノロジーを使いこなせるということは重要なスキルになると思います。

今後、どのような方面に仕事を進めていきたいですか。

アートな雰囲気の溢れる事務所でした

今は、ゲノム編集や再生医療にも興味を持っているので、進んで法律とは関係ないシンポジウムなどに足を運んだり、ネットや雑誌で情報収集などしています。また、ブロックチェーンやイーサリアムなどのスマートコントラクトも法分野を大きく変革する可能性を秘めています。私は、興味のある分野に積極的に飛び込んでいくというスタイルなので、今後も様々な分野に挑戦していきたいと思っています。

また、最近ニューヨークの弁護士と提携して、弊所の海外案件などを手伝ってもらっています。これまでのビジネスライクな法律事務所同士の提携ではなく、弊所の考えやカルチャーに共鳴した個々の弁護士のアライアンスなので、とてもフレキシブルでスピーディーに仕事ができています。このように弁護士の働き方もどんどん多様に変わっていくことを期待しています。

神戸大学法科大学院で学んでよかったことや役に立っていることはありますか。

ズバリ教授陣に恵まれていることですね。若手・中堅・ベテラン教授のバランスも良いし、東西のバランスも良い。ベテランは、名前は有名でも忙しすぎたりしますが、神戸大法科大学院の教授陣は働きざかりで、教育にも熱心な方が多かったように思います。「こんなに頭のいい人たちがいるのか」と刺激、いや衝撃を受けましたし、法律の勉強の楽しさが少しだけ(笑)わかったのが、神戸大学法科大学院での一番の学びでした。また、一学年の人数も多すぎず、少なすぎず、ほどよいと思います。神戸大学法科大学院で一緒に学んだ仲間はいまも交友がずっと続いています。

最後に、私たち後輩や、これから神戸大学法科大学院への進学を希望する人達へのメッセージをお願いします。

今は、弁護士の仕事がないとか、暗黒期などと言われていますが、私の印象では全くそんなことはありません。そのように言われるのは、「弁護士になること」自体を目的としている人が多いからだと思います。確かに弁護士の仕事は、人から感謝をされるし、尊敬もされる。その意味で、とてもやりがいを感じやすい職業ですが、このような分かりやすい弁護士のやりがいに埋没し、「弁護士になって何をやりたいのか」という目的を持っていない人があまりに多すぎるのは致命的なことです。先に述べたように、私にとっては、新しい物事にチャレンジしている人、広い意味でのクリエイターを支援したいという目的が一番にあり、弁護士になることというのは、そのための手段に過ぎませんでした。大学院の頃から、このような目標を持っていたことが、回り道にもなりましたが、最終的には今の自分の強みにも繋がっているように思います。ですから、司法試験に合格するための勉強はもちろん大切ですが、「弁護士になってこういうことをやりたい」という自らの興味を切らさずに持ち続け、それを掘り下げていくことも、同じくらい重要だと思っています。

暗黒期と言われ、弁護士のハードルが下がっている今が、むしろチャンスだと思いますので、自分の将来を具体的に思い描きながら、是非、頑張ってください。

お忙しい中ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。

インタビュー実施日・場所:2016年8月18日 シティライツ法律事務所
インタビュアー及び記事編集者:野島梨沙

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